
評価: 10点
Story
娼婦の母が死に、たらい回しにされた少女(伊藤歩)は、歌手を夢見る上海から来た“イェンタウン”の娼婦グリコ(Chara)に拾われる。 胸にアゲハ蝶のタトゥーを彫っているグリコは、名の無い少女に<アゲハ>と名づけた。 やがてアゲハは、グリコに魅かれている上海出身のフェイホン(三上博史)、謎の男ラン(渡部篤郎)たちが集うなんでも屋「青空」で働きはじめる。 そんなある夜、アゲハはグリコの客である葛飾組の須藤(塩見三省)におそわれるが、間一髪のところ隣人の元ボクサーに救われる。 そのままマンションから落下し死亡した須藤の腹からは、名曲「マイウェイ」が収録されたカセットテープが。このテープの中身は、一万円札の磁気データなのだった。 Filmarksより
【本予告】9.4公開『スワロウテイル 4Kリマスター』本予告30年の時を経て甦る、日本映画の特異点。岩井俊二監督の1996年の傑作『スワロウテイル』が30年の時を経て〈監督完全監修〉4Kリマスター&Dolby Atmos化!『スワロウテイル 4Kリマスター』 26年9月4日(Fri) 劇場公開🦋最新…more
Review
およそ30年前、たぶん中学3年生だった私は、レンタルビデオ店で1本の日本映画を借りてきて、自室で一人鑑賞した。
その映画は、当時“趣味”として映画を観始めたばかりで、地元の映画館で封切られる大衆向けの娯楽映画を中心に観ていた中3の少年にとっては、とても艶めかしく、猥雑で、エキセントリックだった。
鑑賞後、真っ先に私の心情を支配したものは、明らかな“戸惑い”だった。
地方都市で生まれ育ち、知識も見識も乏しかった私は、映画世界で構築された“異世界”、すなわち“イェンタウン(円都)”が織りなす非現実と現実の境界線を見失い、そのまま迷い込んでしまったような感覚を覚えた。
あり得ない世界観に対して、それが創作物であることを理解しているはずなのに、それでも心のどこかで、“この街”が、この国のどこかに存在しているのではないかという思いを、拭い去ることができなかった。
「こんな映画があるのか」と、思った。
それは今、人生を振り返ってみても、自分にとってショッキングかつエポックメイキングな映画体験だったと思える。
娼婦の胸元に刻まれたアゲハ蝶のタトゥー。
トラックの荷台に積まれた壊れかけのピアノを弾く娼婦のヒロイン。
初めて立ったライブハウスのステージ上で響きわたる「マイウェイ」の歌声。
アゲハ蝶が描かれた看板が、ひらひらと飛び立つように上っていく都会の空。
「知らないの?娼婦のグリコ」と残して去る少女の背中を見つめ、躊躇いながら車のドアを閉める男。それと同時に響き始めるエンディングテーマ。
立ち返ってみると、私の“映画的表現”の価値観は、すべて本作を彩る各シーンに集約されていることに気づく。
そういう映画は、時を重ねるほどに、深く深く刻み込まれていく。そして、その価値は、観れば観るほどに果てしなく広がっていく──。
レンタルビデオでの初鑑賞から30年。媒体を変え、何度も何度も観てきた作品だったけれど、念願の劇場鑑賞に至った。
真っ黒な画面に赤字のクレジットが表示されるオープニングを目の当たりにした瞬間からすでに涙が滲んでいた。前述のエンディングテーマ「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」が流れ始めた瞬間には、涙腺が崩れた。
30年分のあらゆる感情が入り混じって、ちょっとわけがわからなくなるくらいに、あまりにもエモーショナルな映画体験だった。
私はこの映画を、長らく生涯ベストの“No.2”に置いていた。その理由を自分の中でも明確にしていたわけではなかったけれど、やはり「映画館で観ていない」という“心残り”が、そうさせていたのかもしれない。
ようやく、生涯ベストを書き換えることができそうだ。
この先も、私は何度もこの映画を観続けるだろう。
娼婦のグリコが唄い、流氓王のリョウ・リャンキが暗躍するその世界を目の当たりにするたびに、また私は現実との境界線を見失い続けるだろう。
Information
| タイトル | スワロウテイル SWALLOWTAIL BUTTERFLY |
| 製作年 | 1996年 |
| 製作国 | 日本 |
| 監督 | 岩井俊二 |
| 脚本 | 岩井俊二 |
| 撮影 | 篠田昇 |
| 出演 | 三上博史 |
| Chara | |
| 伊藤歩 | |
| 江口洋介 | |
| アンディ・ホイ | |
| 渡部篤郎 | |
| 桃井かおり | |
| 山口智子 | |
| 大塚寧々 | |
| 洞口依子 | |
| ミッキー・カーティス | |
| 渡辺哲 | |
| 塩見三省 | |
| 武発太郎 | |
| シーク・マハメッド=ベイ | |
| 小橋賢児 | |
| 翁華栄 | |
| 藤井かほり | |
| ケント・フリック | |
| 鑑賞環境 | 映画館 |
| 評価 | 10点 |



コメント