スバラシネマex「ガス人間」“日韓のクリエイティブの混合と稀代のサラブレッドが東宝特撮臭を充満させる”

スバラシネマReview

評価:  8点

Story

生放送中のTV局で突如起きた、人間が膨らみ爆死するという未曾有の殺人事件。その犯人はガス化した人間――ガス人間だった。そして予告される更なる連続殺人。ガスとして自由自在に動き回るガス人間の正体を、誰ひとり一向に掴むことはできないまま、繰り返し起きる不可解な殺人事件に、日本中が恐怖と好奇心で異様な熱気に包まれていくー Filmarksより

「ガス人間」 予告編 - Netflix
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Review

20年ほど前に、TSUTAYAでレンタルしたソフトで、東宝の異色特撮映画である「ガス人間第一号」を鑑賞した。
ユニークなSFスリラーであり、スリリングな展開と切ない物語の顛末、そして主演の三橋達也の男臭さ、ヒロインの八千草薫の憂いと美しさ、ガス人間を演じた土屋嘉男の渋さと怪しさを堪能できる印象的な映画だった。

ただ何よりも当時の私の脳裏に強く刻み込まれたのは、そのタイトルのインパクトだった。作品パッケージの表記は正確には「ガス人間㐧1号」となっていて、“㐧”の略字のデザインも相まって、なんて潔くて、お洒落な表題なんだろうと。
レンタルビデオ店で作品を物色していた際に、そのジャケットを見つけた時の衝動が思い出される。

そして、オリジナルを鑑賞した当時に強く感じたのが、もし「ガス人間第一号」がハリウッドで生まれた作品であれば、「透明人間」よろしく何度もリメイクされていただろうな、ということだった。
20年前の日本映画界隈では、そういった企画を実現するためのアイデアや資本力、それ以上に“エンターテインメント”を生み出す「土壌」そのものが乏しく、オリジナルが生み出された1950〜60年代と比べた気概のなさのようなものを感じて、落胆していたことも思い出した。

だから、Netflixで「ガス人間」がリメイクされるという情報を聞いた際には、私は驚きと共に人一倍高揚した。昨年(2025年)、「新幹線大爆破」が同じくNetflixでリメイク(正確には続編)された時も高揚したが、今回はある意味それ以上のものがあった。

今回のリメイクはドラマシリーズだったので、少し観るタイミングを逡巡した期間があったけれど、お盆休みの後半、前半の旅行疲れもあってやや体調を崩していた2日間で、全8話を一気見した。

とはいえ“B級”色の強い、SF怪奇映画のリメイクなので、チープな作品に仕上がってしまっていることも危惧していた。
実際のところ、第一話を鑑賞した時点では、ストーリーテリングというよりも、台詞回しにおいて陳腐さを孕んだ違和感を覚えてしまい、それこそ目に見えない“失敗臭”が充満していたことは否めなかった。
クレジットで脚本を担っているのが韓国人スタッフであることを知り、台詞のニュアンスにおいては、翻訳の過程において、その影響が多分に及んでいるのではないかとも思えた。

ただし、第2話、第3話と立て続けに鑑賞していくにつれ、その違和感が霧散していっていることに気づく。
登場人物たちのキャラクター性に、韓国のクリエイティブが持つストーリーテリングと台詞回しが着実に馴染んできたのだとも思うが、それ以上に、個人的にはオリジナルである「ガス人間第一号」が生まれた“東宝特撮”ならではの世界観が蘇っているようにも感じられた。

はっきり言ってしまえば、東宝が生み出した特撮映画のほぼすべての作品は、ストーリーテリングや台詞回しは、陳腐であり、チープである。
でも、その上で繰り広げられるアメージングでファンタジックな映画世界こそが、東宝特撮が世界に誇る「魅力」であり、「味わい」であろう。
本ドラマシリーズは、意図的なのか、偶発的なのかは定かではないけれど、その源泉たる東宝特撮の「味」を見事な塩梅で再現しているように思えた。

全8話を通して、マンガっぽく、良い意味でチープなストーリー展開が、東宝特撮映画の伝説である「ガス人間第一号」のリメイクとして相応しかったと断言したい。

そしてそういった観点を踏まえると、本作のキャスティングも実に的確だった。
主演の小栗旬は、好意的な意味で類型的な主人公像を過不足なく演じていたと思う。また個人的にもデビュー当時からのファンである蒼井優は、彼女独特の“昭和感”を醸し出しつつも、同時に現代的なヒロイン像を好演していた。
広瀬すず、林遣都が演じた兄妹の存在も、本作のドラマ性と娯楽性を増幅させることに貢献していたと思う。

ただ、何と言っても本作を「成功」に至らしめているのは、“ガス人間”を演じたUTAに他ならない。
本木雅弘の息子であり、樹木希林の孫であるこのサラブレッドは、その文字通り浮世離れした体躯と風貌をもってして、俳優デビュー作でありながら、作品世界を支配していた。
無論、ツッコミどころの多い作品世界ではあるが、彼の稀有な存在感が、軽微な粗を強制的に“無臭化”していた。

作品世界を一貫して貫くストーリーと映像展開のダイナミックさや迫力のあるアクション描写、そしてグロさの中にも可笑しみや娯楽性の目配せを忘れないエンターテインメント力は、脚本以外にも韓国人スタッフや韓国のクリエイティブ、資本が大きく関わったことによる恩恵であることも間違いないだろう。

東宝特撮映画、そして昭和の日本娯楽映画にもハマってきた映画ファンの一人として、リメイクを観たい作品はまだまだある。
新時代のエンターテインメント製作の土壌で、国際的な才能とも混じり合いながら、より良い形でそれが実現されていくのであれば、私にとって願ったり叶ったりであることは間違いない。

 

「ガス人間第一号」
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Information

タイトル ガス人間
製作年(放映期間) 2026/07/02 ~
製作国 日本
監督 片山慎三
脚本 ヨン・サンホ
リュ・ヨンジェ
撮影
出演 小栗旬
蒼井優
広瀬すず
林遣都
UTA
竹野内豊
青木崇高
酒向芳
岡部たかし
ピエール瀧
野村周平
中島歩
松浦祐也
こばやし元樹
賀来賢人
高嶋政宏
森川葵
原日出子
中野英雄
夏川結衣
鑑賞環境 Web配信(Netflix)
評価 8点

 

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