
評価: 7点
Story
ある日、届いた荷物は爆弾だった――日本中を震撼させる4日間。 11月、流通業界最大のイベントのひとつ“ブラックフライデー”の前夜、世界的なショッピングサイト最大手から配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。やがてそれは日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく—―。関東の4分の3を担う巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に、未曾有の事態の収拾にあたる。 誰が、何のために爆弾を仕掛けたのか?残りの爆弾は幾つで、今どこにあるのか? 決して止めることのできない現代社会の生命線 ―世界に張り巡らされたこの血管を止めずに、いかにして、連続爆破を止めることができるのか? それぞれの謎が解き明かされるとき、この世界の隠された真の姿が浮かび上がる。 Filmarksより
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Review
オンラインマーケットのアプリを開いて、意中の商品を物色することは、もはや「日常」であり、個人的にも日々のルーティーンと化している。
近場の小売店では売っていない少々マニアックなガジェットから、洗面用具の消耗品に至るまで、ほぼ毎日と言っていいほど商品を検索し、早朝から深夜まで時間にとらわれず「購入」できる時代。
世界で最も有名な某巨大オンラインマーケットを題材にして、その配送センターや物流経路を舞台とした本作は、あらゆる側面においてとても現代的な作品だったと思う。
現代人にとって、極めて身近な生活インフラが、現在進行系でもたらしている“功罪”を、巧みなストーリーテリングで捉えた佳作であることは間違いない。
昨年公開時から評判はあちらこちらから聞き及んでいて、劇場に足を運ぼうと思案はしていたのだけれど、結果的にはスルーしていた。
ネックとなった要因として、本作がキー局で放送された2つのテレビドラマ(「アンナチュラル」「MIU404」)と共通の世界線を持つ“シェアードユニバース”という形態であったことをやはり否定できない。
無論、各ドラマシリーズを観ていなくとも、違和感なく鑑賞できるように創られていることは理解しつつも、ドラマを観ていたほうがより確実に映画を楽しめるのだろうという思いが、劇場鑑賞に二の足を踏ませたことは否めない。
ただ、やっぱりというか、結論としては、2つのドラマを観ていなくとも全く問題なく楽しめる映画世界が構築されていた。
ドラマの登場人物たちのバックストーリーが、映画のストーリーに直接関わることは無く、警察や監察医といったそれぞれの“職責”を担う脇役として登場するので、その普通では考えられない豪華なキャスティングが、往年の“オールスター映画”的に機能していたと思う。
贅沢な脇役たちによる“魅力的であろう”キャラクターたちが、それぞれのバックグラウンドをほのめかしつつ、ちょうどよく存在感を放っていたことも、映画世界の底上げをもたらしていたと思える。
シェアードユニバースという、時代性に合わせた映画製作の形態自体には、個人的にも賛否を感じるけれど、製作陣が限られた資金源を最大限に活用して、面白い映画を創ろうと工夫した結果であることは間違いない。そして、結果的に“集客力のある面白い映画”に仕上がっている以上、誰も否定できないと思う。
映画世界の全体的なルックや映像表現そのものは、テレビと映画の中間のような塩梅で、必ずしも芸術性の高い映画表現ではなかったけれど、冒頭の主人公登場シーンから事件発生までの流れなどは、諸々の状況説明や伏線を孕みつつ、しっかりと観客を映画世界に引き込んでおり、率直に巧みだった。
オープニングをはじめ、随所にハリウッド映画のような手際の良さも感じさせ、総じて真剣な映画作りがなされていると感じられた。
主演の満島ひかりの俳優力もやはり抜群。
様々な要素が絡み合う映画世界とその製作環境において、ストーリー上の二面性を持つ主人公像を見事に演じきっていたと思う。
シェアードユニバースという特異なオールスター映画の中で、ドラマ世界のスター俳優たちをしっかりと的確に「脇役」に配置し、ストーリーの芯を保持できたのは、何を置いても満島ひかり演じる主人公が、物語の中核として存在し続けたからに他ならない。
そんな主人公像の造形も含めて、野木亜紀子の脚本力も光る。個人的には昨年末に鑑賞したドラマ「海に眠るダイヤモンド」の記憶も新しいが、この脚本家による見事なキャラクター造形により、脇役から端役に至るまでキャラクター像が確立されていたことが、様々な世界線が交錯する映画世界を成立させた要因であろう。
ただしその一方で、決して小さくない問題点もあった。
それは、犯人の犯した「罪」が重すぎるということだ。
犯人が辿った過去や状況には充分に同情や共感の余地があり、現代社会の巨大マーケットに対する警鐘として痛烈に突き刺さるものだった。
けれど、犯人の行為はどんなに取り繕っても無差別殺人であり、テロ行為である。それではさすがに同情も共感も爆発と共に吹き飛んでしまう。
あのような行為に及んでしまうくらいに、すでに人間が壊れていたということなのだとは思う。それは犯人のある衝撃的な行為からも明らかだろう。
だがやはり、せめてその対象を絞るとか、被害を最小限に制限するせめてもの配慮があったならば、本作の本題である現代社会に対する批判性がもっと明確になり、映画的な余韻も深まったのではないかと思う。
とはいえ、複合的な意味合いで“楽しめる”映画であったし、“考えさせる”映画でもあった。
便利に快適に進化し続けるこの社会環境の裏側には、必ず闇があり、人的犠牲が存在することは世の常だろう。
この映画世界の中で描かれた「犠牲」が、人間の歩くよりも少し早いスピードで動き続けるベルトコンベアーを止める行為であったことが、極めて象徴的だった。
本作で描かれた社会インフラに限らず、そろそろ私たち人間は、時には歩みを止めるという「勇気」を持つべきなのかもしれない。

Information
| タイトル | ラストマイル | 
| 製作年 | 2024年 | 
| 製作国 | 日本 | 
| 監督 | |
| 脚本 | |
| 撮影 | |
| 出演 | |
| 鑑賞環境 | インターネット(U-NEXT) | 
| 評価 | 7点 | 



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