「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」映画レビュー “ミスリードに翻弄される醍醐味”

スバラシネマReview

評価:  8点

Story

フランスの人里離れた村にある洋館。全世界待望のミステリー小説「デダリュス」完結編の各国同時発売のため、9人の翻訳家が集められた。外部との接触は一切禁止され、日々原稿を翻訳する。しかしある夜、出版社社長の元に「冒頭10ページを流出させた。500万ユーロ支払わなければ全ページが流出する」という脅迫メールが届く― Filmarksより

【公式】『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』2020年1月24日(金)公開/本予告
あなたは、この結末を「誤訳」する。 「ダ・ヴィンチ・コード」シリーズ出版秘話から生まれた本格ミステリートム・ハンクス主演で映画化もされ、「ダ・ヴィンチ・コード」などが一大現象を巻き起こした人気小説「ロバート・ラングドン」シリーズ。その4作目…more

 

Review

久しぶりに、「良いミステリーサスペンス映画を観た」という充足感に包まれた。
マクガフィンとして物語の中心に存在するベストセラー小説の「デダリュス」というタイトルが最後まで覚えられなかったけれど…。

世界的大ベストセラーの最新作の多言語化に際し、世界各国から9人の翻訳家が秘密裏に集められる。
その翻訳家たちを人里離れた洋館の地下室に隔離して、徹底した情報管理体制のもとで翻訳作業を行わせるというプロットはなるほど映画的だなと思ったが、なんとこれは実際に行われた手法だというから驚く。ダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード」シリーズ最新作「インフェルノ」の出版の際に、同様のスタイルで翻訳作業が行われたらしい。

そんな事実に着想を得て練り上げられた脚本が、ずばり見事だったと思う。
慢性的なネタ不足で、世界的に小説や漫画の映画化が溢れる昨今において、この脚本のオリジナル性は価値が高い。
フランスの低予算映画で、それほど有名なキャストも揃っていないので(知っていたのはボンドガールを演じたオルガ・キュリレンコくらい)、最後まで登場人物たちに対する“焦点”が定まりきらなかったことも、サスペンス映画として効果的に機能していたと思う。

プロットの必然性により、国籍の異なる9人が集まり、彼らが織りなす言語と思考が入り混じることで、ストーリーの推進力と、巧妙な“ミスリード”を生み出していた。作中、アガサ・クリスティーの「オリエント急行の殺人」を引き合いに出したことも、巧い誤誘導だった。

もう少し、9人の外国人が群像劇を展開することによる現代的な視点や問題意識を盛り込めていれば、もっと映画作品として深みが出ていたような気もするので、その点はまたリメイク等にも期待したい。
ストーリーの顛末を知ってしまった今となっては、逆に各国出身のハリウッドスターを揃えたオールスターキャスト版も観てみたい。

ともあれ、サスペンス映画を観て純粋に“驚く”という機会も中々少なくなっているので、それを得られた時点で本作の価値は揺るがない。

 

Information

タイトル 9人の翻訳家 囚われたベストセラー LES TRADUCTEURS
製作年 2020年
製作国 フランス・ベルギー
監督
レジス・ロワンサル
脚本
レジス・ロワンサル
ダニエル・プレスリー
ロマン・コンパン
撮影
ギヨーム・シフマン
出演
ランベール・ウィルソン
オルガ・キュリレンコ
リッカルド・スカマルチョ
シセ・バベット・クヌッセン
エドゥアルド・ノリエガ
アレックス・ロウザー
アンナ・マリア・シュトルム
フレデリック・チョー
マリア・レイテ
マノリス・マフロマタキス
鑑賞環境 インターネット(Amazon Prime Video・字幕)
評価 8点

 

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