スバラシネマex「キャシアン・アンドー」(シーズン1)“今この世界で最も重要な「決意」をひたすらに描く渋すぎるSWドラマ”

スバラシネマReview

評価:  8点

Story

<スター・ウォーズ最高傑作>と評される『ローグ・ワン』で、冷静沈着な情報将校として命懸けのミッションに挑んだキャシアン・アンドー。彼はいかにして反乱軍の英雄になったのか? 『エピソード4』の5年前、帝国軍の恐怖に支配された時代を舞台に、伝説の原点へと続く反乱軍誕生の物語が幕を開ける! 公式サイトより

『キャシアン・アンドー』|本予告|Disney+ (ディズニープラス)
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Review

混迷する世界は今、強権で傲慢な政治の支配力が日に日に強まっている。
世界の権力者たちは、大衆の生活苦や格差を狡猾に利用し、私たちの“足元”を縛り付けることで、選択の余地を狭め、判断する気力を削ぎ、彼らの「正義」へとコントロールしている。
自由を謳っていたはずのかの大国も、社会主義から脱しきれなかったかつての大国も、情報統制と覇権主義をエスカレートし続ける近隣国も、イデオロギーこそ違えど、その支配構造や権力者たちのアプローチの根幹は極めて似通っている。

そして、その国、その地域で生きる人々の心情とジレンマも、きっと共通している。
誰しも、自国のあり方がこのままで良いわけがないと分かっているし、その支配構造、政治構造、社会構造を是正すべきであることを、本当はよく理解している。
でも、発言にしろ、行動にしろ、それを表すことは容易ではない。なぜなら、みな自分自身や大切な家族を守ることだけで精一杯だからだ。
自分本位や、個人主義が蔓延しているというわけでもないだろう。黙して従順な“フリ”をしていなければ、攻撃の矛先が自分自身に向けられてしまうことに怯えているだけだ。
全世界において派生的に生じているこの状況を、「恐怖」と言わずしてなんというか。

「キャシアン・アンドー」というドラマシリーズは、そんな恐怖が司る政治が「正義」として世界中に広がりつつあるこのあまりにも危機的な時代において、警鐘を鳴らし、私たち“民”の一人ひとりを鼓舞する“決起”のドラマだった。
力なきものが、絶望的な状況下から、何かを発し、動き出すことのみをひたすらに描きつけたこのドラマの意義は、もっと広く認識されるべきものだろうと思う。

気がつけば「Disney+」の中で飽和状態になっていた「スター・ウォーズ」のスピンオフシリーズを、可能な範囲で少しずつ観ていこうと思い立ち、手始めに鑑賞した「オビ=ワン・ケノービ」の後に本作を観始めた。
“シーズン1”を全話観終えた上で、敢えてまずはっきり言うと、SWの映画世界と同一の世界観とは見紛うほどに“地味”なストーリーテリングが全編通して繰り広げられる。
特に最初の3話目あたりまでは本当に地味で渋すぎる展開がじっくりと描き出される。社会の“底辺”で砂を噛むように生きる主人公キャシアン・アンドーが、些細な諍いで殺人犯になってしまい、逃げ、隠れる。主人公の出自を描く過去の描写が断片的に挟み込まれつつも、SWの世界観の中ではほぼ何も起こっていないに等しい低調な展開が延々と描かれ、戸惑うと同時に、その潔い作劇に感心した。
普通のドラマシリーズであれば、最初の数話はいかに視聴者の関心を掴むかに躍起になり、無意味に派手な展開や、意味深なくだりを用意するものである。
でも、本作においてはそういった表層的な趣向は一切なく、常にこのドラマで描き出すべき核心的な要素にのみ集中して作劇がなされていたと思える。

冒頭から非常に地味な展開ではあったが、作品に対して飽きて観続けられなくなるということは一切なかった。なぜならば、これまた異常なほどに、画作りが精密で本質的な意味でリッチだったからだ。
ライトセーバーもフォースの力も一切映像的には登場しないばかりか、銃撃戦や爆撃シーンも最低限の分量だが、映像の一つ一つがとても丁寧に作り込まれていて、それだけでも鑑賞者を引き込むことに成功していた。

そして最も特筆すべきはやはり脚本による妙技だろう。ハリウッドを代表する脚本家であり監督であるトニー・ギルロイが脚本と製作総指揮を務めあげているからこそ、派手さを最小限に抑えつつも、濃密な人間描写とそこから連なるSWの世界への広大な発展性が随所に垣間見れるストーリーテリングが実現できていたのだと思う。
本作はスピンオフ映画「ローグ・ワン」の前日譚でもあるわけで、同作も手掛けたトニー・ギルロイが、このドラマシリーズも統べることで、極めて高いクオリティーが保持されていたことは間違いないだろう。

主人公キャシアン・アンドーは、自身の過酷な運命と、「帝国」による圧政と横暴の中で必死に生き延びていく。
その様は、決して正道ではなく、崇高な英雄譚などではない。犯罪行為や裏切り、逃避も含めて、ひたすらな「生」への渇望であった。ただ彼は、数々の犠牲と死を越えて、自身が辿るべき道筋を見出す。
この極めて地味で渋いドラマシリーズは、結局主人公が「帝国」に対して致命的な何かを成す様を描き出すこと無く最終話を終える。
キャシアン・アンドーは、ただ行動を「決意」し、それをラストシーンで示したに過ぎない。

この異色のドラマは、その「決意」こそが、今この世界に最も必要なアクションであることを強く訴えかけている。
ドラマの最終章として配信開始を控える“シーズン2”を経て、キャシアン・アンドーがいかに「ローグ・ワン」の行動に至るのか。反逆者の誕生に目が離せない。

 

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Information

タイトル キャシアン・アンドー (シーズン1) ANDOR
製作年(放映期間) 2022年(2022/09/21 ~ 2022/11/23 )
製作国 アメリカ
監督
脚本
撮影
出演
鑑賞環境 インターネット(Disney+・字幕)
評価 8点

 

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