「カンバセーション…盗聴…」“追悼ジーン・ハックマン 晩年の悪辣老人たちの中年の危機を見ているよう”

2025☆Brand new Movies

評価:  6点

Story

舞台はサンフランシスコ。プロの盗聴屋・ハリーは依頼を受け、不倫カップルの会話をテープに録音していた。翌日、ハリーはポリシーを破り録音テープを聞いてしまう。そこには、依頼主がカップルを殺そうとしていることが記録されていた。 Filmarksより

 

Review

2025年2月、ジーン・ハックマンの訃報が届いた。追悼の意味も込めて、1974年公開の本作を鑑賞した。
フランシス・フォード・コッポラ監督による陰謀に巻き込まれる盗聴技師を描いたポリティカルサスペンス――と思って観始めたが、映し出された映画世界は想定とは大いに異なるものだった。
盗聴の専門家として業界内では有名な存在ながらも、くたびれ、信仰心が強い中年男が、自らの生業に対する罪悪感に苛まれて、次第に精神をすり減らしていくという極めて地味で、ナイーヴな映画だった。
「思っていたのと違うな……」と唖然としてしまったことは否めない。

人々が行き交い雑踏ひしめく公園を超望遠で映し追うカットから映画は始まる。
様々な会話や音楽、雑音が入り混じる中で、徐々にとある男女の会話に焦点が当てられる演出が、興味深く、まずは観客の没入感を生み出すことに成功している。
その中には、主人公ハリー・コールを演じるジーン・ハックマンも映り込んでおり、コッポラ監督ならではの映画的なダイナミズムの一端を感じることができる。

雑踏の中で二人の男女は、何やら意味深な会話をしており、その途切れ途切れの盗聴音声の編集作業をしながら、主人公は何やら不穏な闇を感じ取っていく。依頼主からも「これ以上関わるな」と釘を刺され、脅し文句を受けながらも、元々自身の仕事に対して疑心暗鬼になっていた主人公は、真相の究明にのめり込んでいってしまう――。

という序盤の展開は非常にサスペンスフルで、確実に興味を駆り立てていくストーリテリングだったのだが、中盤以降、主人公の吐露を契機として、この映画は巨悪の陰謀などではなく、彼自身のインサイドへと突き進んでいく。

精神が破綻しかけている主人公がクライマックスで陥った展開は、虚実が明確にされず、観客側は一体何が真相であり実像であるのか見失わざるを得ない。
盗聴の依頼主であった会社重役の死の真相が何なのか、主人公が見たトイレの便器から逆流してきた血は幻覚なのか。

映画の最後、主人公は自らが盗聴されているという恐怖に陥り、狂乱したように自室のありとあらゆるものを破壊して盗聴器を探す。
結果的に盗聴器は見つからず、途方に暮れた主人公は、荒れ果てた部屋の片隅で、侘びしくサックスを吹く。そのさまをドライに映し出してこの映画は終幕する。

エンドクレジットを見ながら、「何だったんだ、この映画は」と疑問符で埋め尽くされた。
フランシス・フォード・コッポラが、「ゴッドファーザー」のPART1とPART2の間に撮った本作は、多大な仕事量と重圧の中で、彼自身の不安定な精神状態が如実に反映された作品なのかもしれないと思えた。

主演のジーン・ハックマンは、盗聴技師という自身の仕事にプライドを持ちつつも、過去の事件に苛まれて、中年の危機に沈み込んでいく男の姿を生々しく演じていた。
思い返せば、私自身が映画を観始めた90年代以降、晩年のジーン・ハックマンは、クセの強い悪辣な老年を演じることが多かったように思う。
本作で体現した屈折した中年期を経て、後年の作品で数々の個性的な老年キャラが生まれたと、メタ的な空想をしてみるのも楽しい。

いずれにしても、映画ファンの一人として、名優の死はやはり悲しい。まだまだ観ていない作品も多いので、ジーン・ハックマンという俳優の妙味を今一度堪能していこうと思う。

 

Information

タイトル カンバセーション…盗聴…  THE CONVERSATION
製作年 1974年
製作国 アメリカ
監督
脚本
撮影
出演
鑑賞環境 インターネット(U-NEXT・字幕)
評価 6点

 

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