「ナミビアの砂漠」“嫌悪感と魅惑の先に存在する河合優実という甘美”

2025☆Brand new Movies

評価:  8点

Story

世の中も、人生も全部つまらない。やり場のない感情を抱いたまま毎日を生きている、21歳のカナ。優しいけど退屈なホンダから自信家で刺激的なハヤシに乗り換えて、新しい生活を始めてみたが、次第にカナは自分自身に追い詰められていく。もがき、ぶつかり、彼女は自分の居場所を見つけることができるのだろうか・・・? Filmarksより

9月6日公開『ナミビアの砂漠』本予告
#山中瑶子 監督・脚本 × #河合優実 主演第77回カンヌ国際映画祭 国際映画批評家連盟賞受賞!2人のケミストリーが日本映画に新しい風を吹き込む!映画『ナミビアの砂漠』9月6日(金)全国ロードショー公式サイト happinet-phanto…more

 

Review

中国にルーツを持つ主人公は、親戚とのビデオ通話である中国語のフレーズを繰り返す。
傍らでその様子を見ていた彼氏は、その言葉の意味を彼女に問う。
「分かんない(という意味)」と、彼女は答える。
しばしの間の後、思わず二人は吹き出してしまう。
もはや状態化している激しい喧嘩のあと、空腹を紛らわすため、彼女の元カレが作り置きしていたハンバーグを二人で黙々と食べながら、この映画は終幕する──。

色々な意味で、「意味不明」な映画と言っていいだろう。
それはストーリー自体が難解だとか、映画の作りが複雑だということではなくて、「人間」そのものの普遍的で根幹的な不条理と、それに伴うどうしようもない“面倒臭さ”を、特異な主人公像を通じて描き出しているからだったと思う。

主人公カナの言動は、終始自由奔放で我が儘で傍若無人である。
彼女の振る舞いは決して褒められたものではなくて、人によっては激しい嫌悪感を拭い去れないものだろう。必然的に、それぞれ彼女と暮らす様が描かれる二人の彼氏には、共に同情しかなく、憐れみさえ感じる。
でも、この二人の彼氏が、共に精神的苦痛を強いられながらも、なぜだか彼女から離れ難くいることも、どういうわけか理解できてしまう。
それこそが、まさに人間の説明できない不条理の表れであり、実は誰しもが心の奥底に抱えるものなのではないかと思えた。

人間誰しも、何かを取り繕い、何かを我慢して、何かを誤魔化し、ときには自分自身を“騙して”生きている。
そのいくつもの抑圧を押し留める“堰”が、何かの拍子で決壊してしまったとき、人は手当たり次第に暴れまわり、飛び跳ね、自分自身も含めた周囲の人間を手当たり次第に傷つけてしまうのではないか。

と、言葉を並べ連ねてみたところで、まともな説明にはならない。
なぜならそういう衝動も、無秩序な感情の機微も含めて、「分かんない」のだから。
この映画は、そんな人間の「分かんない」様を、赤裸々に、生々しく、主人公像に重ね合わせるように奔放に描き出していたのだと思う。

互いに傷つけ、心身ともに疲れ果てつつ、ふいに出た「分かんない」という一言に、つい笑ってしまった二人は、ハンバーグを食べ終わった後、どう生きていくのだろうか。
引き続き傷つけ合い、慰め合いながら、それでも共に生きていくだろうか。それとも翌日には彼女はまた別の男の元へ走り去ってしまうだろうか。
それは、本人たちも含めて、誰にも分からない。

河合優実を目当てに観て、やっぱりこの若い俳優の底の見えない果てしなさを感じさせる映画だった。
傍若無人な主人公カナに対して、一抹の拒否感を感じつつも、それでも彼女から目を離すことができなかったのは、それを演じた河合優実の特異な存在感によるものだったと言っていい。
粗雑な言動のなかに垣間見える繊細な仕草、無表情の中に深まる眼差し、気怠そうに動くけれど艶っぽく美しい肢体。河合優実という俳優を構成するすべての要素が、芸術的であり、甘美だった。
これから先、おそらく何十年も彼女の演技を追っていくだろうことを思い、本作がマスターピースなり得ることを確信しながら床に就いた晩秋の夜。

 

「あんのこと」“或る「事実」に対する怒りと悔しさを、歪めずに直視する”
週末深夜、先刻までエンドロールが流れていたテレビの光が消えて、暗い部屋の中で思わず天井を仰いだ。「つらい…つらいな」と、一人何度もつぶやきながら、静かに寝床に就いた。

 

Information

タイトル ナミビアの砂漠
製作年 2024年
製作国 日本
監督
脚本
撮影
出演
鑑賞環境 インターネット(Amazon Prime)
評価 8点

 

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