「るろうに剣心 最終章 The Beginning」映画レビュー “足りなかったのは、やっぱりあの一言”

るろうに剣心 最終章 The Beginning2021☆Brand new Movies

るろうに剣心 最終章 The Beginning

評価: 7点

Story

動乱の幕末。緋村剣心は、倒幕派・長州藩のリーダー桂小五郎のもと暗殺者として暗躍。血も涙もない最強の人斬り・緋村抜刀斎(ひむらばっとうさい)と恐れられていた。ある夜、緋村は助けた若い女・雪代巴(ゆきしろともえ)に人斬りの現場を見られ、口封じのため側に置くことに。その後、幕府の追手から逃れるため巴とともに農村へと身を隠すが、そこで、人を斬ることの正義に迷い、本当の幸せを見出していく。しかし、ある日突然、巴は姿を消してしまう。<十字傷>に秘められた真実がついに明らかになる− Filmarksより

映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』本予告 6月4日(金)公開【The Final大ヒット上映中】
シリーズ最高傑作、誕生。これで終わる。ここから始まる。『るろうに剣心』にとって最も大事なエピソードである最終章。剣心の頬に刻まれた<十字傷の謎>に迫る究極のクライマックス。剣心への復讐のため、東京に総攻撃を仕掛けるシリーズ最恐の敵・縁との究極の戦いを描きた『The Final』。そして、その理由は、時空を超え幕末...

 

Review

予想通り、ビジュアルは爆発している。
「雪代巴」のあまりにも美しく、あまりにも残酷な斬殺の様。雪景色の白と、血しぶきの赤の、無慈悲な色彩。
あのシーンを、実写映画の中で表現しきったことが、この映画における唯一無二の価値だろうと確信した。

原作漫画の「人誅編」の中で主人公緋村剣心によって語られる“回想シーン”の映画化というよりは、やっぱりTVアニメシリーズの放送終了後にOVA作品として制作された「追憶編」の実写映画化という位置づけが相応しい今作。
個人的に、「追憶編」を観た翌日に今作を鑑賞したこともあり、それぞれの作品の良さや、再現性、そして難点も含め比較しつつ堪能することができた。

まずこの映画シリーズ通じての最大の強みでもあるキャスティングのマッチングについては、今作もその例にもれず良かったと思う。
ストーリー展開上、過去作と比べると登場人物自体がそれほど多くはないが、新たに登場する主要キャラクターを演じた俳優陣は、皆それぞれ素晴らしかった。

高橋一生演じる桂小五郎は、倒幕を掲げる長州藩の長としての非情さと、人心を掌握する人間味の深さを併せ持っており、この俳優らしい“あやしさ”を放っていた。
安藤政信が演じた高杉晋作も、「るろうに剣心」に登場するキャラクターらしい良い意味での実在性の無さが、史実における高杉晋作という人物の傾奇者的なイメージとも相まって魅力的だった。

アクションの見せ場を盛り上げてくれる「新選組」の面々も、ビジュアルのアンバランス感がとても漫画的で良かったと思う。
新キャラではないが、斎藤一役として主演の佐藤健以外では唯一の皆勤賞を果たした江口洋介のダンダラ羽織姿もセクシーだった。

そして、キャスト陣の中で最も印象的だったのは、冒頭にも記した通り、雪代巴の美しさと儚さを表現しきった有村架純だろう。
実はこれまで有村架純という女優に対してあまり好印象を持つ機会がなかったのだけれど、今作の有村架純は、まさに雪代巴そのものだと思えた。
何を考えているか分からない表情の無さ、名が表す通りまるで雪のような儚さと美しさ、そしてその中でふいに垣間見える慈愛と強さ。
有村架純の女優としての存在感と、雪代巴というキャラクター性が見事にマッチしていたのだと思う。

 

映像作品としてのビジュアル、そしてキャスティングには物凄く満足した。
ただその一方で、ストーリー展開、物語の起伏において、もう一つ物足りなさ無さを感じてしまったことも否めない。
それは、OVA版の「追憶編」を観終わった後にも少なからず感じたことだった。

その要因は明確で、即ちこの二つの作品(「追憶編」と「The Beginning」)で描き出されるストーリー展開が、原作漫画における緋村剣心の“回想シーン”の範疇を出ていないということに他ならない。
もちろん、主人公をはじめとするキャラクターたちの心理描写は、より深く掘り下げて表現されている。
ただ、話運びおいては、どうしても中途半端で、感情的に盛り上がりきれない状態で終わってしまう印象を受けてしまう。
それは、必ずしもハッピーエンドや、分かりやすい大団円で終えてほしいとうことではない。

原作においては、この“回想シーン”を「発端」として、怨念と復讐の権化と化した雪代縁との壮絶な戦いの末に、剣心が時代を越えて長らく抱え続けた悲痛と後悔が、本当の意味で“雪解け”を迎えるという展開に帰結する。
言わば、クライマックスに向けての“前フリ”なわけで、そのストーリーだけを単体で捉えてしまうと、どうしても尻切れ感が拭えないのだと思う。
(「追憶編」はOVAという形態であることもあり、「番外編」という位置づけだったのでまだ受け入れやすかった)

この前日譚を敢えて映画シリーズの最終作に据えた試み自体は、面白いと思えたし、決して間違っていなかったと思う。
連作として先に公開された「The Final」や、第一作「るろうに剣心」を思い起こして、今作の後の物語を鑑賞者側が補完することは可能だろう。
けれど、10年も続いたシリーズの最終作とするからには、今作単体で高揚感を極める何かしらのエッセンスがあっても良かったのではないかと思う。

安直だが、倒幕を果たし血塗られた刀を戦地に突き刺して去った緋村剣心の足元が、次第に“るろうに”として新時代の道を歩む姿になり、「おろ?」と振り返る様で終幕する。
そんな1シーンがポストクレジットでもいいので映し出されたなら、それだけでも、この映画シリーズを追ってきた原作ファンとしては十分に高揚できただろう。

 

とかなんとかダラダラと綴りつつ、振り返れば、シリーズ第一作の映画「るろうに剣心」が公開されたのは2012年。
足掛け10年近くの年月を経て、5作の映画作品が、エンターテイメント映画としてそれぞれ一定レベルのクオリティを保持して製作、公開されたことは、近年の日本映画において中々稀なことだったと思う。
無論、“ワーナー・ブラザース”が製作・配給の後ろ盾になっていることは大きく、それ故の潤沢な制作環境であったことは言うまでもないが、それでも、“環境”さえ整えば、しっかりと見応えのある映画世界を構築できることを証明したことの意義は大きい。

漫画、映画の垣根を越えて、「時代劇」そして「チャンバラ」という娯楽の楽しさを新しい時代に継いだことの価値はこれから先、益々高まるのではないか。

 

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「るろうに剣心」
エンドロールが終わり暗転、“一抹の期待”を覚えた次の瞬間に“何も起こらず”、「ワーナー・ブラザーズ」のロゴマークが映し出されて、少し落胆した。 もし、この映画にアメコミ映画定番の「続編あるぜ!」的なカットが付加されていたな…more

 

Information

タイトルるろうに剣心 最終章 The Beginning
製作年2020年
製作国日本
監督
大友啓史
脚本
大友啓史
撮影
石坂拓郎
出演
佐藤健
有村架純
高橋一生
村上虹郎
安藤政信
北村一輝
江口洋介
鑑賞環境映画館
評価7点

 

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