「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」“語られなかった祖父の記憶を伝える使命”

2025☆Brand new Movies

評価:  8点

Story

仲間の最期を「勇姿」として⼿紙に書き記す功績係――彼が本当に⾒たものとは︖ 太平洋戦争末期の昭和 19 年、南国の美しい島・ペリリュー島。そこに、21 歳の⽇本兵⼠・⽥丸はいた。漫画家志望の⽥丸は、その才を買われ、特別な任務を命じられる。それは亡くなった仲間の最期の勇姿を遺族に向けて書き記す「功績係」という仕事だった。 9 ⽉ 15 ⽇、⽶軍におけるペリリュー島攻撃が始まる。襲いかかるのは 4 万⼈以上の⽶軍の精鋭たち。対する⽇本軍は1万⼈。繰り返される砲爆撃に鳴りやまない銃声、脳裏にこびりついて離れない兵⼠たちの悲痛な叫び。隣にいた仲間が⼀瞬で亡くなり、いつ死ぬかわからない極限状況の中で耐えがたい飢えや渇き、伝染病にも襲われる。⽇本軍は次第に追い詰められ、⽟砕すらも禁じられ、苦し紛れの時間稼ぎで満⾝創痍のまま持久戦を強いられてゆく―― Filmarksより

『ペリリュー ー楽園のゲルニカー』本予告/12月5日(金)公開
生き残る、ふたりの約束――1万人中、最後まで生き残ったのはわずか34人の激戦 ペリリュー島の戦い。終戦80年に届ける、史実に基づく戦火の友情物語が誕生。戦争マンガの新たなる金字塔が、劇場アニメーションとしてついに映画化!主題歌が 上白石萌音…more

 

Review

20年以上前に亡くなった私の祖父は、かの大戦時、南方諸島の前線に送られたと聞いている。
過酷な戦場で、時には虫やトカゲを食して、命を繋いだということを、“祖母”や“父”から聞いた。祖父本人の口から、そういった前線の実情を直接聞いたことはなく、実子である私の父や伯母にも、当時のことはほとんど話さなかったらしい。

戦後80年を経過した今、戦争を体験した日本人の数は必然的に減少し、“戦場”を経験した人の数はさらに僅かになっている。それ自体は、この国が戦争を放棄したことの明確な成果だと言えるだろう。けれど、それと同時にこの国の人たちは、今一度戦争の愚かさ、そして戦場の凄惨さを、「事実」として認識し直さなければならない時期を迎えている。
そんな只中で公開されたこのアニメーション映画は、現代社会の日本人に対する非常に重要なメッセージを孕んでいたと思える。

太平洋戦争末期パラオ諸島のペリリュー島で繰り広げられた日本軍とアメリカ軍の攻防が、デフォルメされたキャラクター造形と主人公のどこか呑気な人間性や、牧歌的な空気感と入り混じりながら描き出される。
極めて凄惨で過酷な戦場の最前線とそのアニメーションのギャップが、逆説的に事実の残酷さを際立たせ、「ペリリューの戦い」そのものへの見識が乏しい私たちの思考と心情に突き刺さるようだった。

このアニメーション世界に対する“感覚”は、2016年に公開された「この世界の片隅に」にもとても良く似ている。
あの映画の主人公“すずさん”が、当時の一人の女性のありふれた視点を通じて、戦争がもたらした悲劇を燦然と描き出したように、本作も主人公“田丸均”の一市民として戦場に送られた男の視点を通じて、悲劇を越えた最前線の光景を、まさしく地獄絵図として描き出していた。
どちらの作品の主人公も、“絵を描くこと”を自らの表現手段としていたことも、ある種意図された類似性なのではないかと思える。

本作自体が非常に価値あるアニメーション映画であることを認める一方で、原作に対して描ききれていない要素も多分にあるのではないかとは感じた。
原作漫画は未読だが、全11巻からなる長編がもたらすストーリーテリングを、この映画一遍で描き切ることは流石に困難であったことは想像に難くない。
恐らくは、“功績係”を任じられ、戦場の現実をつぶさに見つめつつ、そこに虚構を交えて伝える役割を負った主人公の視点を通じて、原作ではもっと生々しく、もっとディープな現実を描き出しているのではないかと想像する。
ぜひ原作漫画も読んでみようと思うし、本作の製作陣には、もし機会があるのならば、描ききれなかった要素を補完した「完全版」の製作にも挑んでほしい。

自分の経験をほとんど喋らなかった私の祖父と同様に、生き延び、家路についた本作の主人公も、決して家族に委細を話すことはなかったのではないかと、エンドロールを観ながら想像した。
漫画家志望の主人公は、はじめ戦場を舞台にした冒険活劇を漫画化しようと夢想していたけれど、筆舌に尽くし難い経験を生き延びた後、何を描き、何を伝えようとしただろうか。
彼がその後歩んだ“戦後”が、祖父の記憶とも重なり、ことほど左様に感慨深い。

選択肢もなく、非人間的な環境で、非人道的な行動をせざるを得なかった人たちがいて、それでも彼らが自らの生命を継いだからこそ、今の私たちの人生が存在していることは否定できない。
そのことに対して改めて敬意を払い、そして未来に向けて事実を伝え続ける姿勢を途絶えさせてはならないのだと思う。

私が鑑賞した劇場に、小学生くらいの姉弟を含んだ親子連れがいて、同じ空間で本作を鑑賞した。
私自身には、この映画の鑑賞にあたって、小中学生の自らの子どもたちを連れてくる気概と勇気が無かったことを悔しく思った。そして、私も、何らかの形で“祖父の記憶”を子どもたちに伝えていかなければならないと強く思った。

 

「この世界の片隅に」<10点>
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Information

タイトル ペリリュー -楽園のゲルニカ-
製作年 2025年
製作国 日本
監督 久慈悟郎
脚本 西村ジュンジ
武田一義
作画監督 中森良治
声の出演 板垣李光人
中村倫也
天野宏郷
藤井雄太
茂木たかまさ
三上瑛士
鑑賞環境 映画館
評価 8点

 

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