スバラシネマex「おむすび」“ヒロイン不在を支えた二人の女性像”

スバラシネマReview

評価:  5点

Story

平成元年生まれのヒロインが、栄養士として、人の心と未来を結んでいく“平成青春グラフィティ”。“ギャル魂”を胸に、主人公・米田結(橋本環奈)が、平成・令和をパワフルに突き進みます! 公式サイトより

 

 

Review

ほぼ全話をリアルタイムで見届けて、最終話を見終えたときの率直な印象は、「中途半端なドラマだったな」ということだった。
無論、本作は前期の朝ドラ「虎に翼」には遠く及ばず、かといって近年随一の迷作「ちむどんどん」ほどのフラストレーションが生じたわけでもない。「朝ドラとはこういうもの」と言われれば確かにそうかもしれないと思うと同時に、もう少し何とかならなかったか、いや、何とかできたはずだという口惜しさが終始残るドラマだった。

そう感じさせるのは、僕自身、このドラマの世界観やキャラクターたちを決して嫌いになれなかったことが大きい。

幼少期に阪神・淡路大震災を経験し、福岡の糸島に移り住み、ギャルになり、管理栄養士となったヒロインが、「食」を通じて成長し、家族をはじめとする人々との絆を深めていくストーリーは、決してセンセーショナルではないが、良い意味で朝ドラ的であり、ここで描くにふさわしいテーマだったと思う。
前期の「虎に翼」は大傑作だったけれど、戦前・戦後の日本社会を「法律」を軸に描いたそのストーリーは濃密で、人によっては朝ドラとして「重すぎる」と感じられたことも否めないだろう。
その反動として、天真爛漫な“ギャル栄養士”が主人公の本作の性質は、朝ドラという大きな文脈の中でバランスが取れており、「アリ」だったと思う。

それでも結果的に本作が“中途半端”で“口惜しい”ものになってしまった最大の要因は、やはり何と言っても主人公の存在感の“軽さ”と“薄さ”だったのではないかと思う。
全話を通して観た人なら明らかだと思うが、橋本環奈演じるヒロインの言動が本作を通じてとても軽薄で、存在感が薄かった。それは、他の朝ドラのヒロインたちと比較するとより顕著だった。
橋本環奈という女優のパフォーマンスが悪かったというよりも、単純に彼女の登場頻度が極端に少なかったことが原因であることは明白だった。
それが多忙な人気女優をキャスティングしてしまったことの弊害なのか、根本的な脚本上のバランスの悪さなのかは定かではないけれど、半年間にわたるドラマの節々で「不在」となるヒロインに対しては、当然ながら共感が薄まってしまう。中盤、2週間近くほぼヒロインが登場しない展開は、やはり朝ドラとして「異様」と言わざるを得なかった。

ただし、そのヒロイン不在の一方で、彼女を支えるキャラクターたち、それを演じる俳優陣はとても魅力的だった。彼らが織りなす人間模様が、本作を嫌いになれない最大の要因であったことは間違いない。(その点が「ちむどんどん」と大きく異なる部分だった)

何と言っても、ヒロインの実姉でギャルの“カリスマ”として登場する“歩”を演じた仲里依紗の存在が大きかった。
これは本作を観たほぼすべての人が感じたことだろうけれど、不在がちのヒロインを時に凌駕する存在感を放ち、ヒロイン以上に震災によるトラウマを抱え続け、“ギャル”としての人生を邁進する彼女の成長と人間ドラマこそが、実は本作の核心だったのではないかと思う。
ゆえに、端から仲里依紗をヒロインに据えたほうがドラマ全体のバランスは良かったのではないかと思えてしまった。個人的に「時をかける少女」時代から彼女のファンだったので、その思いはひとしおだった。

さらに、麻生久美子と北村有起哉が演じたヒロインの両親の人生模様も、本作において欠かせない要素だった。
麻生久美子演じる母親のキャラクター性は、本作における“3人目のヒロイン”と言っても過言ではなく、ギャルの娘たちの成長を支えながら、自身も人生を通じて女性としてのアイデンティティを発し続ける姿は、母親としても、女性としても、人間としてもとても魅力的だった。これまた個人的に20年以上の大ファンなので、本質的な意味で美しく成熟を見せる女優像に称賛を送りたくなった。

また、北村有起哉が演じる父親像も、想像以上にユニークで素晴らしかったと思う。長年、数々の映画で渋く地味なキャラクターを演じてきた俳優だが、本作の父親役ではそのイメージを大きく脱却し、ユーモラスかつ人間味あふれる表現力が魅力的だった。朴訥とした風貌で放つ一言一言に哀愁を感じると同時に、大いに笑わせてもらった。

主人公以外の脇役が総じて魅力的だったことからも、細やかな台詞回しはとても上手く、面白いドラマだったと思える。ただやはり、脚本としての全体のバランスには大いに難があったのだと思う。
1995年の阪神・淡路大震災から30年目の節目に放映されるドラマとして、主要キャラクターたちに常にあのときの“神戸の記憶”を持たせ、彼らの行動原理に結びつけ続ける作劇は真摯だった。
けれど、その一方で、主人公たちが人生の歩みとともに新たに迎える試練──東日本大震災やコロナ禍などを通じた「現代」の描写は、全体的に類型的で浅く感じてしまった。

ドラマ性が深まるほど、その焦点がぼやけ、人々の根幹的な情感が描き出されていない印象を受けてしまったことは、本作のテーマにとって致命的な弱点だったと思える。
おそらくそれも、ヒロインの存在感の小ささに起因していることは否めないだろう。

過密スケジュールの人気若手女優を安易にキャスティングするくらいなら、震災のトラウマを抱え、ギャル道を邁進するアパレル経営者や、本当の家族とは疎遠になっても自ら見つけ、生み出した新しい家族の中で女性としての人生を全うする母親を、「現代」を生きる“ヒロイン”としてじっくり描いたほうが、本作が描きたかった本質的な物語は、より的確に表現できたのではないかと思えてならない。

 

スバラシネマex「虎に翼」“今日も彼女たちは、その先の一寸の笑みを得るために黙々と踊り続ける”
さて、どこから語り始めるべきか。最終回放送から一週間たち、なかなか書き始めることができない。 取っ掛かりを見出そうと、SNSを振り返ってみれば、「虎に翼」関連で自分が投稿したコメントだけで、文字数が1500字を超えていた。それはこの“朝ドラ”の類を見ない濃密さを物語っていた。
スバラシネマex「ちむどんどん」“半年間のちむもやもやを耐え忍んだ達成感”
結局、「ちむどんどん」とは何だったのか? 最終回からはや2ヶ月、このこびりつくようなモヤモヤは、善し悪しは別にして(いやそれは分かりきっているが)、今年を象徴する一つのトピックスだったと言えよう。

 

Information

タイトル おむすび
製作年(放映期間) 2024/09/30 ~ 2025/03/28
製作国 日本
監督
脚本
撮影
出演
鑑賞環境
評価

 

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