スバラシネマex「虎に翼」“今日も彼女たちは、その先の一寸の笑みを得るために黙々と踊り続ける”

スバラシネマReview

評価:  10点

Story

日本史上初めて法曹の世界に飛び込んだ、一人の女性の実話に基づくオリジナルストーリー。困難な時代に立ち向かい、道なき道を切り開いてきた法曹たちの情熱あふれる姿を描く。 Filmarksより

 

Review

さて、どこから語り始めるべきか。最終回放送から一週間たち、さあレビューをしたためようと思い立つが、なかなか書き始めることができない。
取っ掛かりを見出そうと、放映期間に都度投稿していたSNSを振り返ってみれば、「虎に翼」関連で自分が投稿したコメントだけで、文字数が1500字を超えていた。
半年間感じ続けてきたことではあるけれど、それはこの“朝ドラ”の類を見ない濃密さを物語っていた。

 

『すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。』

 

昭和史におけるこの国の「法」と「裁判」の変遷を、つぶさに描いた本作では、この日本国憲法第十四条の一文が事あるごとにピックアップされ、ときに執拗に“大映し”になる。
それはこの憲法の成立までにひたすらに傷つき、奪われ、失ってきた多くの人々の犠牲と、成立から今現在に至るまで、必ずしもこの条文が遵守されていない「現実」に対する憤りとジレンマを、本作が表現し続けてきたことの証明に他ならない。

「虎に翼」は、日本で初めて女性として弁護士となり裁判官となった三淵嘉子をモデルにした朝ドラだけれども、このドラマが描き出した物語は、一人の女性の視線を超えて、昭和から現在に至るまでのこの国の「時代」と「社会」そのものを、常に「はて?」という疑問符と共に痛烈にシビアに映し出していた。

このドラマにおいて、「裁判」はその主人公(伊藤沙莉)が拭い去れない疑問符をなんとか払拭しようとする一つの着地点として描き出される。
そして彼女は、旧態依然の家制度の中で「無能力者」と位置づけられる女性の離婚裁判から、性差別問題、学生運動、少年法改正、原爆裁判、尊属殺人に至るまで、この国の根幹的な“歪み”と“脆さ”を目の当たりにして、さらに疑問を深めていく。
裁判はいつの時代もこの国の民度や社会性、文化水準と、そこに生きる私たち国民の人間性を“丸裸”にしていた。

無論、そこには必ずしも幸福な結論(判決)が存在するわけではない。
今現在も確実に続き、そして新たに生まれ続ける「不平等」からも明らかなように、数々の社会的問題とそれに伴う疑問符は、このドラマと地続きに存在し、蔓延し続けている。
直接的な実害を受ける者でなければ勿論、たとえ実害を受ける当人であったとしても、それらに気づかないフリをして、目を伏せていた方が楽かもしれない。

「それでも」だ。それでも主人公“寅子”は、この社会の在り方に対して、「はて?」と唱え続ける。
すべての疑問、すべての悲しみ、すべての怒りは、「スン」とやり過ごし続けている限り、軽減も、解消することもないことを、彼女は知っていたから。

 

「地獄を見る覚悟はあるの?」

かつて母(石田ゆり子)が説いた通り、それは「地獄の道」だった。戦争や数々の別れを経て、その道から逃げ出してしまうこともあった。けれど彼女は、立ち止まり、回り道をして、そこを歩き続ける。思うに、彼女にとってそれは「地獄の道」などではなく、辿らざるを得ない人生そのものだったのだと思える。

寅子たちが生きた昭和時代を経て、平成、令和と、この社会の“何か”はきっと良くなっているのだろうけれど、人が行き交う橋の上では、100年前と変わらず女性たちが深いため息をついている。
「法」のもとで、変えられたものと、変わらないもの。それは、人間社会の光と闇を等しく映し出したこのドラマの真摯な態度だったと思えるし、実は進む道に関係なく、この世界そのものが楽園にもなり地獄にもなることの現れだったとも思う。

 

2年ほど前の主演俳優のキャスティング発表時点から期待して、その期待通りに「伊藤沙莉」が最高だった。
大げさではなく初回から最終回に至るまで、彼女の演技が物語る毎朝の“15分間”が楽しみで仕方がなかった。
主人公同様にそれぞれの人生を貫いた4人+1人の同級生たちも、主人公に寄り添い支えた二人の夫も、終始一貫して主人公のために苦言と一女性としてのプライドを示し続けた花江ちゃんも、地獄の道を説きつつ娘の決断を「そう」と受け止める母も、そしていつも団子を食わせてもらえない松山ケンイチも、登場するすべてのキャラクターとキャストが最高だった。

 

空に唾を吐き、100年先の未来に向けて飛んでゆく

昭和時代から(実際はそのずっと前時代から)、「今」に通ずるあらゆるセンシティブな問題を「法」を通して描き連ねてきた作品だからこそ、実は賛否も多かったようだけれど、その「賛否」こそが、「法」という不確かで、常にその是非を問い続けるものを扱うドラマとして至極相応しい反応だったとも思える。

米津玄師の主題歌と共に表現されたオープニングの“ダンス”で示し続けられた通り、社会によって一方的に「弱者」と位置づけられた者たちは、今日も様々な感情を秘めた表情で、黙々と踊り続ける。
その先の一寸の笑みを得て、さらに続く未来を自分らしく生きていくために。

 

Information

タイトル 虎に翼
製作年(放映期間) 2024/04/01 ~ 2024/09/27
製作国 日本
演出
脚本
撮影
出演
声の出演 尾野真千子
鑑賞環境 TV(地上波)+インターネット(U-NEXT)
評価 10点

 

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