「時には懺悔を」“表裏一体の懺悔と感謝を抱えて、生きていく”

2026☆Brand new Movies

評価:  9点

Story

探偵がひとり、殺された。「死んだほうがマシな人間」と呼ばれた男・米本(佐藤二朗)。調査することになったのは、元同僚の一匹狼・佐竹(西島秀俊)と、助手で修行中の聡子(満島ひかり)。調べを進めるうちに、9年前に起こった新生児誘拐事件にたどり着く─。殺された米本が死の間際に調査していたのは、9年前に失踪し今は父親の明野(宮藤官九郎)と二人で暮らす、重い障がいのある少年・新。過去に傷つき、誰かを傷つけ、孤独に彷徨う大人たちが出会った「新」という小さな命。家族から目を背けた男、娘に捨てられた女、子を生きる糧にした男、産んだ子を愛せなかった女。「生きているのが奇跡」と言われたそのひとつの小さな命が、逃げ場のない現実にもがき苦しむ大人たちの心を動かしていく─。 Filmarksより

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Review

時を重ね、己の人生を重ねていけばいくほど、私は“優しい人間”ではないということを思い知り、落胆する。
そういうとき、いつも思い出されるのは、中学生か高校生の頃、体を悪くして一時実家に同居していた祖母に対して、冷たく当たってしまった日々──
小さい頃から祖母のことは大好きだったはずなのに、同居に伴う僅かな生活空間の乱れや、リズムの崩れに対して、私は不快感を覚えてしまい、分別のつかない子どものようにその感情を露わにしてしまっていた。そう先が長くないであろう祖母の姿に、恐れを感じていたこともあったのだろう。

しばらくして、祖母は亡くなった。優しかった祖母に対して、私はなぜあんな態度をとってしまったのだろう。数十年たった今も、ふいに思い出し、悔やむ。
それは私にとっての、“懺悔”だ。
──そういうことを、この映画に登場する人間たちの言動や人間模様を目の当たりにして、思い巡らせた。

きっと私には、本作の登場人物のどの境遇に置かれても、彼らと同じように“生きる”ことはできないだろう。
自分自身への深い悔恨を抱えながら、酒に溺れ、それでも探偵業を通じて人と関わり続けることも。
愛する子と引き離され、その我が子に憎まれ、その空虚を埋め尽くすように遮二無二働き、盗聴先のとある“親子”の言動に慈しみを感じることも。
そして、誘拐した重度障害の子を一人育て続けることも。

彼らの言動と人生は、決して褒められたものではなく、誰も羨むようなものでもない。
彼ら自身、誰よりもそれを自覚し、それこそ懺悔し続けるように、ただその一日を必死に生きている。
でもその一方で、この社会の誰が、彼らのその日々を、その人生を否定できるのか?とも思う。
私自身を含め、人間誰しも優しく、清く正しく生きたかったはずだ。でも、“自分”という人間は、自分自身が思っているよりも、ことのほか弱く、臆病で、優しくない。そして間違い続ける。

だからこそ、私は、本作に登場する懺悔に塗れた人間たちの人生が、無性に、強く、正しく思えた。そして眩しいくらいに輝いて見えた。涙が溢れて止まらなかった。

2018年の「来る」以来、実に8年ぶりとなる中島哲也監督の待望の最新作だった。
2004年の「下妻物語」以降、この人の作品を観続けているけれど、中島哲也の映画には、いつも躊躇いがない。
コメディ、ファンタジー、サスペンス、バイオレンス、ホラー、どんな作品であっても、何か特定の「題材」を描く以上、大なり小なりの非難や否定は避けられない。
でも、この監督は自身のエゴイズムを信じて描き切る。その作品から溢れ出る胆力のようなものに、私はいつも打ちのめされる。

実際に障がいのある子どもを役者として起用することで、元来虚構であるはずの映画世界に、紛れもない“真実”が差し込まれている。
スクリーンいっぱいに映し出される、折れ曲がったアンバランスな体躯には、我々が想像し得る痛みや悲しみなんて軽々と超え、ただ強固な「現実」があった。

私自身、我が子に対して「五体満足であればそれでいい」などと軽々しく思う。それは親として間違っていないと思うけれど、果たして私はその真理を本当に理解しているのかと自問せずにはいられない。自分自身の浅はかな思考が、その強く、神々しさすら感じるリアルによって泡沫と化すようだった。

重度障がい児を「題材」として描く以上、本作においても、きっと一部からの“拒否感”は深く大きいものになっているだろう。
それでも、本作にはその題材を映画娯楽として表現することへの真摯さと勇敢さが満ちあふれていたと思える。

或る“父親”を、表現者としての懐の深さをもって演じきった宮藤官九郎が素晴らしかった。
映画のラスト、彼が演じた“父親”のその後は、満島ひかりのモノローグのみで極めて淡々と端的に「説明」される。
その描写は、すべてが失われ、人々の忘却と共に過ぎ去った物悲しさにあふれているけれど、なぜか私には、“父親”が“息子”を想い続け、懺悔と感謝が入り混じった表情で、ひっそりと生き続ける姿が目に浮かんだ。

 

「来る」<8点>
結局、最も凶悪でおぞましい存在の極みは、お化けでも、妖怪でも、怨霊でもなく、「人間」であるということが、この物語の発端であり、着地でもあった。その物語のテーマ性は、劇中の台詞の中にも登場するが、「ゲゲゲの鬼太郎」の時代から“ホラー”の中で延…more
「渇き。」<10点>
終幕。茫然自失。とりあえず、ペットボトルの水を喉に流し込んだ。“潤い”を感じるのに一寸の時間を要した。渇き切ったのは、喉か、心か。善し悪しを判別する前に、”とんでもない”映画であることは確かだと思えた。「劇薬エンターテイメント」というキャッ…more
「告白」
また一つ“ただ事ではない”映画が誕生したと思う。映画公開を前にして、湊かなえの原作を読んだ。「問題作」という評に違わず、すぐ身近に存在する人間環境を描写しているにも関わらず、今までに感じたことの無い禍々しさとおぞましさに溢れた非常に後味の悪…more

 

 

Information

タイトル 時には懺悔を
製作年 2025年
製作国 日本
監督 中島哲也
脚本 中島哲也
門間宣裕
撮影 穐山茂樹
出演 西島秀俊
満島ひかり
黒木華
宮藤官九郎
毎熊克哉
鈴木仁
烏森まど
山﨑七海
しんすけ
山下舜太
諸角優空
柴咲コウ
塚本晋也
片岡鶴太郎
佐藤二朗
役所広司
鑑賞環境 映画館
評価 9点

 

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