主人公は大手保険会社のしがないサラリーマン。上役の不倫の場所として自らのアパートを提供し、出世の口利きをしてもらっているという設定は、少々強引だし、かと言ってそこにインパクトがあるかというと、そうでもない。
ストーリーのプロット自体は、「安いラブコメ」と言ったところだ……。
しかし、圧倒的に素晴らしい映画だった。「名作」の名にふさわしい。
主人公も含め、登場するキャラクターの人間性が魅力的だというわけでもない。
むしろ、揃いも揃って、狡くて、愚かで、滑稽だ。
でも、そういう部分こそ、すべての人間が共通して持つ“人間らしさ”だと思う。
その決して格好良くない人間の有りのままの姿を、きっちりと描写していることが、この作品の最も素晴らしい部分で、多くの人たちに愛される映画である所以なのだろう。
気まぐれで意地悪な人間関係の中で、右往左往する主人公にふいに舞い降りるハッピーエンド。
それはあまりに唐突のようにも見えるけれど、人生の転機なんてものはそんなもので、喜びも哀しみもいつだってふいに訪れる。
人間の営みの儚さと、だからこそ生まれる素晴らしさを巧みに描いた傑作だと思う。
「アパートの鍵貸します The Apartment」
1960年【米】
鑑賞環境:BS
評価:9点
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