「手紙ってめちゃ大事やねん」と、沢尻エリカが諭すように言い放つ。
もう映画のクライマックスだと思っていたシーンでのこの陳腐であざとい台詞を聞くや否や、思わず大あくびをしてしまった。
物語としての面白さがまるでない「道徳映画」を観てしまったなあと思った。
けれど、映画はもう少し続きがあって、結局最後は涙が滲んだ。
東野圭吾の原作は読んでいないので、一概には言えないが、ストーリーには彼らしい捻りはない。
殺人を犯した兄を持つ主人公の苦闘の日々を、兄弟間の“手紙”のやり取りを絡めながら、つらつらと重苦しく描く。
映像となり、主人公を山田孝之が演じることで、その“重さ”は余計に”じっとり”としたと思う。
だからと言って、特筆する程の「悲劇」があるわけではない。明確だけれど地味な「不幸」がさざ波のように訪れては過ぎ去り、また訪れる。その繰り返し。
苦悩し続けた主人公は、ついに兄との明確な「決別」を決意する。
ラスト15分、そこから物語はようやく感動へ転じていく。
映画の中でも説教臭く描かれる通り、世の中から「差別」が無くなるなんてことはないのだろうと思う。
なぜなら、人の世は、差別し、差別されることで成り立っている要素が多分にあるからだ。
そして、そのことと同じく、一度繋がった人と人との関係性を完全に消し去るなんてことも、実際不可能なことだろうと思う。
それが血縁者であるなら尚更。ただただ受け止めて、生きていくしかない。
使い古された言葉を敢えて使うなら、それが「宿命」というものなのだろう。
そういうことをこの兄弟がそれぞれに受け止めたラストシーン。
受刑者の兄を演じる玉山鉄二が、慰問漫才をする弟の姿を見つめながら、号泣を押し殺すようにひたすらに両の手を合わせる。
それは、延々とありふれた道徳論を描いてきた映画の果てに辿り着いた、安直な綺麗ごとではない真実味だったと思う。
映画としての展開は非常に稚拙で、ラストシーンでは小田和正の楽曲をほとんど意味不明に持ち込んで、強引に涙を誘うという浅はかさは否定できない。
ただ工夫も面白味もないからこそ、愚直な登場人物達の姿から、人間と社会、人間と人間の結びつきについて考えさせられる映画だとは思う。
「手紙」
2006年【日】
鑑賞環境:BS
評価:6点
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