「グッドニュース」“嘘のような真実、真実のような嘘に彩られた高品質ブラックコメディ”

スバラシネマReview

評価:  9点

Story

舞台は1970年代。ハイジャックされた飛行機を無事に着陸させるため集まったトラブルシューターと空軍中尉、そして政府高官。彼らはチームを組み、ある計略を企てる。 Filmarksより

『グッドニュース』予告編 - Netflix
『グッドニュース』は、Netflixで10月17日 (金) より独占配信スタート: 日本の旅客機がハイジャックされ、犯人から平壌に向かうよう要求される。事態を収拾すべく投入された素性不明のフィクサーは、飛行機をソウルに着陸させるため...

 

Review

秀逸な“史実パロディ”であり、上質なブラックコメディだった。
舞台は韓国と日本、そして出演陣も各国の俳優たちだけれど、そのルックや語り口には、ハリウッドの手練れが撮っているような映画的な芳醇さが溢れていた。配信映画であるものの、改めて韓国映画の土壌の豊かさを感じた。

本作のストーリーのベースに存在しているのは、勿論1970年に起こった「よど号ハイジャック事件」。
“パロディ”と表現したが、本作の鑑賞後、実際に起きたことのあらましを調べてみると、大筋の展開や顛末は、ほぼ本作で描き出されたストーリー通りであったことにとても驚いた。
金浦国際空港での“偽装”や、政務次官の人質身代わりなんて展開は、娯楽要素を高めるためのフィクションだろうと観ていたが、それらが事実だったと知り、本作が孕む娯楽の質はより一層高まった。

逆に考えると、現実は小説よりも奇なりを地で行くような題材が、これまでまともに映画化されていなかったことが、にわかに信じがたかった。
韓国映画であるけれど、日本の昭和史を代表するような「事件」の映画化、その観点からも本作の価値と独自性は高いと思える。昨年配信された「新幹線大爆破」の“続編”同様に、昭和の日本の在り方や、それにまつわる他国との関係性を描き出すプロジェクトを成立させたNetflixの存在価値は、映画ファンにとってやはり大きい。

本作の“主眼”が韓国側の人間模様や社会性に置かれている点も、実際に起きた事件の背景やそれがもたらした影響を、より多角的に表現する要因となっている。
もしも本作の主人公が日本側の航空機の機長や、役人たちであったとしたら、このストーリーテリングはもっと短絡的になっていたと思える。
だが、日本側の関係者たちを、存在感のある“脇役”として配置することで、本作はより俯瞰した新しい視座をもたらしている。

1970年という時代背景は、日本と韓国の外交関係、また韓国と北朝鮮の対立関係においても、極めて微妙でセンシティブな時代だったと言える。
日本と韓国は1965年の国交正常化から5年しか経過しておらず、日本の韓国への植民地支配時代の精算やわだかまりがまだまだ残っている頃合い(無論、それは2026年の現在においても解消されているものではないが…)。
そして、朝鮮半島は休戦状態であり、韓国と北朝鮮の間ではまだまだ具体的な火種が、現実問題としてくすぶり続けている状況。

そんな中で巻き起こったこの3国が絡む大事件は、各国の政治的観点、または軍事的観点からも、極めて取り扱いが困難な事象だったことだろう。
それを文字通りに“板挟み”となる韓国側の立場と人間模様を主体にして描き出すことで、本作は歴史的な側面においても、非常に深い味わいをもたらしているのだと思う。

韓国側の役人や軍人たちが歴史的に抱えるジレンマや屈辱、それに伴う横暴さや盲信が、絶妙なバランス感覚によるブラックコメディで描き出されており、この事件の“当事者”は日本人であるはずだけれど、そこにはこれまで知り得ていなかった視座や価値観、そして人間の感情が溢れていた。

相変わらず韓国人俳優たちの存在感と実在感は素晴らしい。主演のソル・ギョングをはじめ、主要人物から端役に至るまで、一癖も二癖もある人間たちを生々しく演じきっていた。
一方、山田孝之、椎名桔平ら、日本人俳優たちも、この韓国映画の中で日本人俳優としてのアイデンティティと存在意義を見事に放っていたと思う。

韓国人俳優と日本人俳優の、この幸福なコラボレーションにも、非常に意義深いものを感じた。
良い側面も、悪い側面も含めて、日本と韓国の歴史的な関わりは極めて根深いのだから、両国の俳優や映画文化は、もっと積極的に関わり合って、相互に認め合い、新しい「価値」を生み出し続けてほしいと強く思う。

映画のラスト、本作の主人公であり、政府高官に子飼いにされているフィクサー(問題解決屋)の男が、告げる“グッドニュース”は、一般的な価値観からすれば特段ハッピーなことではないように感じる。
けれど、歴史の裏側の本質を知る者にとっては、「何もなかった」とされることこそが、この世の平穏の真実であり、皮肉にもそれがこの世界の真理なのであろう。
最初から最後まで、その一貫したドライな俯瞰が、この上質なブラックコメディを生み出した最たる要因であろう。

 

Information

タイトル グッドニュース GOOD NEWS
製作年 2025年
製作国 韓国
監督 ピョン・ソンヒョン
脚本 ピョン・ソンヒョン
イ・ジンソン
撮影 チョ・ヒョンレ
出演 ソル・ギョング
ホン・ギョン
リュ・スンボム
山田孝之
椎名桔平
キム・ソンオ
笠松将
山本奈衣瑠
鑑賞環境 インターネット(字幕・Netflix)
評価 9点

 

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