
評価: 8点
Story
凶悪犯罪が増加し、厳格な治安統制のためにAIが司法を担うことになった近未来。 ある日、敏腕刑事のレイヴンが目を覚ますと、妻殺しの容疑で<マーシー裁判所>に拘束されていた。 冤罪を主張する彼だったが、覚えているのは事件前の断片的な記憶のみ。 自らの無実を証明するには、AIが支配する世界中のデーターベースから証拠を集め、 さらにはAI裁判官が算出する”有罪率”を規定値まで下げなくてはならない。 無罪証明までの<制限時間は90分>。さもなくば<即処刑>──。 Filmarksより
<AIが人類を処刑>映画『MERCY/マーシー AI裁判』1月23日(金)日米同時公開!近未来、人類はAIによって裁かれる…膨大な情報が錯綜し、観るものを惑わすリアルタイムリミット型アクションスリラー!容疑者: #クリスプラットAI裁判官: #レベッカファーガソン無罪証明までの制限時間は90分。さもなくば即処刑─!<STORY…more
Review
どうやら私は、クリス・プラットが主演するエンターテイメント映画との相性が良いようだ。
それは、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」や「ジュラシック・ワールド」といった大人気シリーズのみならず、ジェニファー・ローレンスと共演した「パッセンジャー」や、Amazon独占配信だった「トゥモロー・ウォー」など、割と酷評も多かったエンタメ作品においても、このハリウッドスターが体現する“ザ・娯楽”を心から堪能できたことからも明らかだった。
そして、この最新作を劇場鑑賞して、その嗜好性は決定的になったと言える。
本作のキービジュアルと、添えられたイントロダクションは、いかにも“B級SF”のそれであり、普通であれば劇場鑑賞はスルーして、早々に開始されるであろうサブスク配信を待っていたことだろう。
ただ、主演のクリス・プラット、そして大好きなレベッカ・ファーガソンのキャスティングの座組で、ほぼ衝動的に劇場鑑賞に至った。
思い直してみれば、元来映画館に映画を観に行くという行為なんてものは、「好きな俳優が出ているから観に行こう」という、そういう単純な動機でいいものだし、「映画」というものはそもそもそういう娯楽だったはずだ。
いつしか、作品それぞれにおける情報が事前に流布されすぎるようになり、サブスク配信、鑑賞料金の高騰という様々な要素が重なって、劇場鑑賞へのハードルが上がってしまっていることは、一映画ファンとしてとても残念に感じる要素だ。
そうして、本作自体への期待値よりも、映画館に足を運ぶという行為そのものに改めて価値を置いて鑑賞したのだけれど、本作は想像以上に良質で、今この時代に観るに相応しいSF映画だった。
超高性能AIが、あらゆる制約や手順を超越して“司法”を担うという、まさに現代社会と地続きの近未来を描いた本作。そのアイデアやプロットは、現実社会における現在進行系のAIの進化を踏まえると、容易に辿り着くものであろう。
同様のストーリー的な構図ですぐに思い浮かべたのは、スティーブン・スピルバーグ監督×トム・クルーズ主演の「マイノリティ・リポート」。あの映画の場合は、未来予知がシステム化された社会で、犯罪者認定をされた主人公が、逃亡しながら自らの潔白のために戦うというストーリーだったが、プロットの構図としては、本作と非常によく似ている。
ただ、本作が過去作のいずれとも異なり、白眉だったポイントは、要となるAIの“仕組み”が、極めて現実的であった点であろう。
本作に登場するAI裁判所“マーシー”は、超高性能ではあるけれど、その能力はあくまでも、人間が残した映像や言動、物的証拠等のおびただしい“情報量”を、即座に整理し論理的な“事実”を突きつけるという範疇にとどまっており、それは現在一般的に使用されている“ChatGPT”や“Gemini”らと、仕組み的には大きく変わらないものだった。
その現実的な“仕様”が、本作をただの荒唐無稽なSF映画ではなく、現実社会と地続きの社会性とドラマ性を生み出していると思えた。
いかにもB級SFのルックとストーリーテリングではあったけれど、描き出されたテーマや、そこに付随する警鐘は、存外にも、SF的な哲学性を色濃く孕んでいたと思う。
少し話が逸れるが、その哲学性は、手塚治虫の「火の鳥」をも彷彿とさせる。「火の鳥」の「未来編」では、超高性能電子頭脳によって司法や政治が統べられた世界が描き出され、その中の人間の愚かさと脆さが、大スペクタクルと共に燦然と描かれていた。
本作の帰着として描かれた、人間の弱さと脆さ、そして故に切り離せぬAIの“不完全さ”は、かの名作漫画にも通じるものだった。
本作は、近未来における“法廷劇”でもあり、“脳筋馬鹿(褒めている)”の象徴でもあるクリス・プラットが、文字通り被告人席に縛り付けられたまま、ストーリーが展開していく構成もユニークだった。
そして、彼と対峙するAI裁判官“マドックス”を演じたレベッカ・ファーガソンのキャスティングも、やはり本作の勝因の一つだろう。美しい無表情を携えたこの俳優のビジュアルは、まさにAIキャラクターに合致しており、逆説的な“リアル”さがあった。
ストーリー展開とともに、このAI裁判官の存在しないはずの「感情」が滲み出ていく、というよりも、「感情」という“バグ”が芽生え、困惑するさまにも、通り一遍なSFの境界を超えた哲学性が垣間見えていた。
自分でも少し困惑してしまったのだが、人間とAI、それぞれの脆さと過ちが顕になるクライマックスを展開しつつ、それらを相互に認めあったうえで、「更新」される結末に、なぜだか涙腺が緩んだ。
長々と取り留めなく文章を綴ってしまったが、自分の中では想定外の感情が生まれたなかなか忘れ難いSF映画だったと思える。
唯一の後悔は、通常のスクリーンサイズで鑑賞してしまったことだ。撮影サイズの仕様により、通常スクリーンでは上下左右に不自然な黒帯が表示されていた。
期待値を下げることなく、ちゃんとIMAXシアターで鑑賞していたならば、もっと特別な映画体験に至っていたかもしれない。


Information
| タイトル | MERCY/マーシー AI裁判 MERCY |
| 製作年 | 2026年 |
| 製作国 | アメリカ |
| 監督 | ティムール・ベクマンベトフ |
| 脚本 | マルコ・ヴァン・ベル |
| 撮影 | カリッド・モタセブ |
| 出演 | クリス・プラット |
| レベッカ・ファーガソン | |
| 鑑賞環境 | 映画館(字幕) |
| 評価 | 8点 |
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