
評価: 7点
Story
IRAの闘士ファーガスは、仲間の釈放のために人質にしたアフリカ系の英国軍兵士ジョディと立場を超えて意気投合し、恋人ディルの話を聞かされる。ジョディの死後、ディルの元を訪れたフォーガスも彼女に惹かれていくが、そこにはある秘密があった。 Filmarksより
Review
“人間”同士の出逢いと別れが、或る男の盲信と固定観念を打ち砕く話。
レンタルビデオ店に通っていた時代から何度もパッケージは目にしていた作品だった。エキゾチックな褐色肌の女性が映し出されたキービジュアルは、長らく印象に残っていたけれど、どういう類の映画なのか判別がつかず、ずっとスルーしていた。
配信サービスを物色していたところ、「アカデミー賞脚本賞に輝くトリック満載のラブサスペンス」という見出しに食指が動き、ようやく鑑賞に至った。
観終わってもなお、この作品の“類”を端的に表すのは難しいと感じた。
サスペンスなのか、ラブストーリーなのか、コメディなのか、それとももっと本質的な人間ドラマなのか。なかなか一筋縄ではいかないそのストーリーテリングは、その重層感も含めて、アカデミー賞脚本賞の栄誉に相応しかったのだろうと思える。
ストーリーは、大きく二部構成で展開されており、前半パートのIRAの一味に誘拐された黒人兵士“ジョディ”と、一味の見張り役の男“ファーガス”(主人公)との会話劇が、極めて地味ではあるが味わい深かった。
黒人兵士を演じる若かりしフォレスト・ウィテカーのアクの強い風貌と演技が印象的。時に目隠しをされたまま口元だけで演技をする描写では、このキャラクターの隠された人間性が見え隠れしているようで、本作の後半の展開を象徴するものだったと思える。
スティーブン・レイ演じる主人公と、この黒人兵士の間で生じる刹那的な友情関係が、本作全体の肝でもあったと思う。故に、この前半パートはもう少し長く、じっくりと描き込むまれても良かったように思う。
短い誘拐期間の中で繰り広げられる会話により、両者の人間性や、その後に登場するキーパーソン“ディル”への想像がもう少し深掘りされていれば、後半パートのドラマ性がもっと深まったのではないか。
後半パートでは、死んでしまったジョディの言伝を守るべく、ファーガスとディルの邂逅が描かれる。ファーガスは、ジョディとの経緯を伏せたまま、彼を愛したディルと急速に惹かれ合っていく。
何とも言えない微妙な距離感を保ったまま、徐々にその距離を縮めていく大人の恋愛模様は、特別に美しいわけでも、ロマンティックなわけでもないけれど、酸いも甘いも噛み分けてきた人間ならではの“品”があった。
そして、ふいに訪れる衝撃の事実──
正直なところ、現実的にはどうであれ「多様性」という言葉が世界的な標準語となった2026年現在においては、この映画的衝撃が物凄くセンセーショナルというわけではない。ディルのエキゾチックな魅力を感じつつも、なんとなく“そう”なんじゃないかなという雰囲気は早い段階から感じ取れる。
ただし、重要なのはそんな表層的な驚きなどではなく、そこから始まるこの二人の“人間”同士の関係性の深まりだろう。
亡きジョディの存在も亡霊のように感じつつ、互いに困惑しながらも、二人は着実に人間関係を深めていく。
非常に濃密なドラマ性を孕んだストーリーテリングだったと思う反面、この後半パートにおいても、前半パート同様の性急さを感じてしまったことは否めない。
やはりもう少しこの二人の人間関係の醸成を、物理的な時間もかけてじっくりと描き出すべきだったのではないかと感じてしまう。
112分という上映時間は、映画作品として標準的だろうけれど、本作の深いドラマ性を不足無く表現するには少し短すぎたのではないかと思える。
冗長な映画は退屈だけれど、本作の映画世界の場合、少しばかりの退屈さこそが、人間関係のもどかしさや人間の愚かさや滑稽さ、そしてテーマである“性(さが)”を描き出すうえで必要だったのかもしれない。
Information
| タイトル | クライング・ゲーム THE CRYING GAME |
| 製作年 | 1992年 |
| 製作国 | イギリス |
| 監督 | ニール・ジョーダン |
| 脚本 | ニール・ジョーダン |
| 撮影 | イアン・ウィルソン |
| 出演 | スティーヴン・レイ |
| ジェイ・デヴィッドソン | |
| フォレスト・ウィテカー | |
| ミランダ・リチャードソン | |
| エイドリアン・ダンバー | |
| ブレッフィニ・マッケンナ | |
| ジム・ブロードベント | |
| 鑑賞環境 | |
| 評価 | |
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