評価:
8点Story
理想と信念に突き進む男(渡瀬恒彦)、生きて欲しいと願う妻(吉永小百合)をよそに、目的達成のため命を投げ打つ。社会派監督の描く架空戦記としての自衛隊クーデター。 狂気に満ちた隊員に対峙する政治家も又、狂気に満ちていく。 Filmarksより
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Review
渡瀬恒彦演じる主人公の、“軍人”としての憂いと憤り、そこから端を発した“狂気”に対して、現代の日本人としてまったく共感できない。ただし、その共感性の欠如を、「理解できない」と一笑に付し、この映画の本質を見誤ることもまた愚かだろう。
終戦から80年、八月真っ只中のお盆休みに観たこの古いポリティカル・サスペンスは、日本国内に限らず、全世界的に混迷する今この時代にこそ、再び目に触れるべき問題作だった。
舞台は198X年の日本。戦後以降、民主主義化に伴い形骸化する日本古来の伝統と純潔、政治腐敗と国威の弱体化を憂慮し憤慨した自衛隊の反乱分子がクーデターを画策する。その暗躍を感じ取った政府側との水面下での攻防が繰り広げられる。
本作のストーリーテリングにおいて最も特徴的であり、異質である点は、対立する両者(もしくは三者)がどちらも「正義」ではないことだ。
無論、クーデター側も、政府側も、己の正義を掲げて対抗するわけであるけれど、その主張と方法はどちらも横暴で狂気に満ち溢れている。
故に、先述の通り、主人公をはじめとするほとんどの登場人物に対して共感性は生まれない。
それでもこの社会において、本作で描き出されるような「暴走」は発生する可能性を常に孕んでおり、一方的な“正義めいたもの”を掲げる誰かしらの「思惑」が生き残ることに、言い表せない恐怖感を覚える。
某少年漫画の悪役の台詞にもあったが、「正義は勝つって!?そりゃあそうだろ 勝者だけが正義だ!!!!」とはまさにこのことであり、人間の歴史とはそれの連続であることが事実なのだ。
決して白日の下にさらされない水面下での悲惨な攻防を経て、この映画はとても暗鬱なエンディングを迎える。
娯楽映画としては、事の顛末を憂う誰かが生き残り、本作のテーマ性を観客と共有する余韻を残すことが適切だったろうし、満足度も高まっただろうとは思う。
だがしかし、本作のつくり手は安直なエンディングを避け、巨大な陰謀の正体を垣間見せて虚無的な終幕を描き出した。そこには、現実社会に対する俯瞰的な視座と矜持が感じられた。
諸々の人物描写の掘り下げ不足や、映画表現としてのチープさが散見されることは否めない。特に山本圭演じる石森の人物像はもっと丁寧に描き出し、主人公の一人として存在感を高めるべきであったろう。
ストーリーテリングやエンディングを含めて、誰もが「満足」できる映画ではないだろうし、“失敗”に限りなく近い問題作であろうとも思う。
それでも、本作が描き出した狂気性と恐怖性は、渡瀬恒彦演じる藤崎の異様な眼差しに集約されていた。
この“暴走”が、非現実で陳腐だと断じられるほど今この瞬間の社会が成熟しているとは、とてもじゃないが思えない。
作中、クーデター側にハイジャックされるブルートレインの車内において、無知で危機感の薄い一般乗客の一人を名優・渥美清が演じていたことに象徴されているように、今一度多くの国民は目を覚まし、自身が巻き込まれている「現状」を正確に把握しなければならない。
Information
タイトル | 皇帝のいない八月 |
製作年 | 1978年 |
製作国 | 日本 |
監督 | |
脚本 | |
撮影 | |
出演 | |
鑑賞環境 | インターネット(U-NEXT) |
評価 | 8点 |
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