「愛にイナズマ」“マスクで隠して演じきる私たちの社会に雷を”

2025☆Brand new Movies

評価:  8点

Story

26 歳の折村花⼦(松岡茉優)は気合いに満ちていた。幼い頃からの夢だった映画監督デビューが⽬前に控えていたからだ。花⼦の若い感性をあからさまに⾺⿅にし、業界の常識を押しつけてくる年上の助監督には困りものだが、空気は全く読めないがやたら魅⼒的な舘正夫(窪⽥正孝)と運命的な出会いを果たし、ようやく⼈⽣が輝き出した⽮先…。卑劣で無責任なプロデューサーに騙され、花⼦は全てを失ってしまう。ギャラも貰えず、⼤切な企画も奪われた。失意のどん底に突き落とされた花⼦を励ますように正夫が問いかける。「夢をあきらめるんですか」「そんなワケないでしょ。負けませんよ、私は」静かに怒りを滾らせ闘うこと誓った花⼦が頼ったのは、10 年以上⾳信不通だった“どうしようもない⽗(佐藤浩市)と兄たち(池松壮亮・若葉⻯也)”だった。正夫と家族を巻き込んだ花⼦の思いもよらない反撃が始まる! Filmarksより

『愛にイナズマ』予告編(10/27公開)
松岡茉優&窪田正孝W主演『愛にイナズマ』10/27(金)全国公開‼共演:池松壮亮、若葉竜也 / 佐藤浩市豪華キャストが繰り出す笑いと涙の痛快エンタテイメント!物語の結末に…想像を超えた”感動”が待っているー!圧倒的熱量の石井裕也監督最新作!…more

 

Review

とてもバランスが悪くて、歪で(いびつで)、テーマに対して美しく整えられた映画ではなかった。でも、愛さずにはいられない映画だった。
否定的なことを多く綴るかもしれないけれど、まず、私自身はこの映画が「好き」と言っておきたい。

“Chapter”で区切られる本作の一つ一つのシーンは、時にこの上なくエモーショナルで忘れがたい。そして、とても可笑しい。深夜ひとりでリビングで鑑賞しながら、思わず吹き出す笑いを抑えられなかった。
ただ、それらの魅力的なシーンの数々が、チャプターで区切られている通りに散文的に、密接に連携されていないことが、本作の特徴でもあり、難点だったとも思う。

2023年公開の本作は、コロナ禍の最中に製作されたと推測される。そのため、リアルタイムの社会と人々の鬱積やフラストレーションが色濃く反映されていた。
ほんの1、2年前のことなのに、既に懐かしさすら感じるのは、それだけこの世界の変化が速すぎるためか、あるいは、アレを体験した一人の現代人として、記憶を無意識的に遠ざけようとしているためか。

いずれにしても、本作は“コロナ禍”を象徴する作品の一つになり得るだろう。
中でも特に印象的だったのは、真っ赤に染められたバーのシーン。
非常事態宣言も発令されるかというギスギスした世界の中で、場末の小さなバーの空間は、世界に取り残された異世界のようだった。
そこで出会った二人が、本能的に惹かれ合い、キスをする。
それはまさしく、本作のハイライトであり、ストーリーテリングなんて無視して、このシーンがエンディングだったならば、私はそれだけでノックアウトだったかもしれない。せめて、監視カメラに残された実際のキスシーンだけでも、映画の最後に取っておいてほしかった。

このバーのシーンでも顕著だが、主演の松岡茉優がやはり素晴らしい。
混沌とした感情を秘めた光のない瞳を携えつつ、そこから発される爆発的な感情を、この女優は自然に体現し演じきる。迷いなく、映画世界の中で息づく女性像を創造し表現する才は、この世代では随一だろう。

そしてその主人公を筆頭に、劇中の「家族+1」を演じる俳優たちがみな素晴らしい。
10年ぶりに面と向かった家族たちが、ぎこちなく会話を交わし、大いに戸惑いながらも、やがて激しい喧嘩に発展していく様が最高に可笑しかった。
彼らが織りなす歪な家族像は、もっと長く描き出すべきだったと思う。特に、佐藤浩市演じる父親と兄妹たちは、この映画の中でもっと多くの時間を過ごし、その関係性の有り様と変化を丁寧に描き出すべきだったと思う。

一方で、映画の前半パートで登場する、“悪役”の助監督とプロデューサーの存在も非常に重要なものだった。
三浦貴大演じる助監督は、業界に少し長くいるというプライドだけで新人監督である主人公を否定し、MEGUMI演じるプロデューサーは馬鹿の一つ覚えのように「業界の常識」を盾にモラルを無視した軽薄な言動を繰り広げる。
この二人のキャラクターは、この映画における社会の「鬱積」そのものとも言える存在であり、その振る舞いや発言には只々胸糞悪さを感じる。主人公がブチ切れるのももっともだ。

でも、ふと立ち返ると、結局彼らもこのクソみたいな社会の中で、必死に生きているに過ぎないのではないかと思わされる。

「意味がないと映画じゃない」と存在そのものが軽薄な助監督は吐き捨て、「人生には意味がないこともある」と主人公が反論する。
助監督の発言自体には、全く中身も説得力もないけれど、主人公の言葉にもまた中身や価値が備わっていたわけではなかった。それは、彼女自身が、自分自身の人生を彩る様々な事象の背景や、そこに存在する人間たちのことを深く理解していなかったからだ。

助監督やプロデューサーの言動は、実際のところ彼らの利己主義で浅はかな打算や嫉妬、才覚の無さによるものだったろうけれど、結果的に、主人公の本質を射抜いていた。

この“悪役”二人が、主人公にもたらした言動は、非常に重要なものだった。それだけに、彼らに対しても何らかの“イナズマ”を落としてほしかった、いや落としてあげてほしかった。
直接的であれ、間接的であれ、何かしら彼らが自らの人生を俯瞰して、後悔や諦観を見せるシーンがあったならば、本作の人間模様はもっと多様性が生まれ、重層的になったと思える。

後半の“家族パート”は、愛すべきシーンに溢れているけれど、最後の最後でもう一つ映画的な表現によるエモーションが欲しかったとも感じる。
土砂崩れ寸前の実家の裏の崖や、生死不明の母親の存在などは、その最後のエモーションを引き起こすためのラストピースであると思っていたのだが、十分に活かされなかったことが惜しい。
映画監督の主人公が撮っていた映像も、単にデータの消失で終わらせては勿体ないと思う。現実的には未完成だったとしても、残っていた映像(監視カメラのキスシーンも含めて!)を繋いだ“映画”をエンドロールに流すような演出があれば、この作品の情感はさらに高まったと思える。

“コロナ禍”は、急速に人々の記憶から遠ざかっているけれど、マスクで表情を隠して“演じる”ことが日常となった現代人の生活は続いている。
世界は本当に唐突だし、そのすべてに意味を見出そうとすることは愚かなことかもしれない。それでも、せめて自分と、自分が愛する者たちの人生には、真摯に向き合い続けなければ、光は見えてこない。
“1,500万円”を、はした金とするか、見栄の象徴とするか、汚れた報酬とするか、贖罪の証明とするか、「意味」をもたらすのは、結局のところ自分自身だろう。

 

P.S “中野親子”の共演とメタ的演出も触れずにはいられない。

 

Information

タイトル 愛にイナズマ
製作年 2023年
製作国 日本
監督
脚本
撮影
出演
鑑賞環境 インターネット(Amazon Prime)
評価 8点

 

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