「大統領の陰謀」“何が変わらなくとも、あり続けるべき報道の姿勢と責任”

2025☆Brand new Movies

評価:  8点

Story

1972年6月17日、民主党本部オフィスに侵入した男5人が逮捕される。ワシントン・ポストの記者・ウッドワードは、カメラなど彼らの所持品や経歴に不審なものを感じて調査を開始。やがて、現職大統領・ニクソンの陣営が事件に関わっていたのを掴むが…。 Filmarksより

 

Review

ロバート・レッドフォード演じる主人公の新聞記者が、情報源の男に会うために、人気のない地下駐車場の階段を足早に下りていく。どこにでもありそうな建物をロケーションにしたありふれたシーンのはずだけれど、遠目から映し出されたその映像には、何か不穏めいたものが滲み出ていて、彼がこれから危険を伴う“真相”へと踏み入っていく状況がよく伝わってきた。

ウォーターゲート事件を報道した実際の二人のジャーナリストを描いた本作は、「実録」であることの性質上、とても地味で、映画的な派手さは皆無だ。
そういう意味では「大統領の陰謀」という邦題は、やや大袈裟であり、本作のストーリーと乖離していることは否定できない。
実際の事件の概要や、その後の顛末をよく知らない人間からすると、この仰々しい邦題のせいで、本作のラストシーンが語る余韻を、正しく汲み取れない要因になっているとも思える。

つまるところ本作は、合衆国大統領が目論んだ巨大な陰謀をセンセーショナルに描き出すようなサスペンスフルな娯楽映画などではなく、時の権力者の陣営側の人間たちが、その権力を維持し続け、あるいはしがみつき続けるために行った不正工作の一端を、あくまでもジャーナリストの視点から描かれた、きわめてミニマムな作品である。
ただ、ミニマムな映画ではあるけれど、冒頭にも挙げた通り、一つ一つのシーンや、登場人物たちの言動は丁寧に繊細に描き出されており、本作の本質が、ジャーナリズム精神に則ったつくり手たちの真摯なスタンスの上に成り立っていることが見て取れる。

結局、二人のジャーナリストを中心にしたワシントン・ポスト紙の報道によって、直接的にニクソン大統領がその地位を追いやられたというわけではない。
巨大権力は、いつの時代も狡猾に物事を捻じ曲げ、都合よく解釈し、傲慢に君臨し続ける。
そのことは、本作のラストシーン、主人公の二人が懸命に記事をタイプし続ける中で、件の大統領が圧倒的な勝利を収めて再選を果たすニュースが響く様からも明らかだろう。

だがしかし、報道の自由を掲げ、勇気ある追及をし続けたことが、徐々に大きな糾弾に繋がっていったことも事実。
巨大で、傲慢な権力に対して抗い、勝利し得るのは、一瞬の大きな打撃ではなく、長い時間をかけて真相を追及し続ける報道の姿勢そのものであるということ。
本作が、この地味で、見方によっては淡白にも感じる映画世界の中で真摯に描きぬいたものは、権力の陰謀を暴いた一部のジャーナリストのヒロイズムなどではなくて、「報道」そのものの普遍的な意義と責任だったのだと思う。

本作の主人公の一人を演じたロバート・レッドフォードが、今月(2025年9月16日)亡くなった。
稀代の人気俳優、そして演者としても製作者としても絶大な成功を果たした映画人への追悼も兼ねて本作を鑑賞した。
まだまだ鑑賞していない彼の出演作、監督作も多いので、これからも世界から愛された映画人のフィルモグラフィーを追っていきたいと思う。

 

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Information

タイトル 大統領の陰謀 ALL THE PRESIDENT’S MEN
製作年 1976年
製作国 アメリカ
監督
脚本
撮影
出演
鑑賞環境 インターネット(U-NEXT・字幕)
評価 8点

 

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