
評価: 9点
Story
18世紀半ば、人口は100万を超え、天下太平の中、世界有数の大都市へと発展した江戸。
蔦重こと蔦屋重三郎は、江戸郊外の吉原の貧しい庶民の子に生まれ、幼くして両親と生き別れ、引手茶屋の養子となる。
血のつながりをこえた人のつながりの中で育まれた蔦重は、貸本屋から身を興して、その後、書籍の編集・出版業をはじめる。
折しも、時の権力者・田沼意次が創り出した自由な空気の中、江戸文化が花開き、平賀源内など多彩な文人が輩出。
蔦重は、朋誠堂喜三二などの文化人たちと交流を重ね、「黄表紙」という挿絵をふんだんにつかった書籍でヒット作を次々と連発。
33歳で商業の中心地・日本橋に店を構えることになり、“江戸の出版王”へと成り上がっていく。 Amazonより
Review
2010年の「龍馬伝」以来、15年ぶりに大河ドラマを完走した。
“映画鑑賞”がエンタメ吸収の基軸である私にとって、一年間に渡って毎週同じドラマを観続けるという行為はなかなか習慣化しづらく、この15年の間に興味のある題材やキャスト陣が揃ったドラマもあるにはあったが、結局食指が動かなかった。
今年(2025年)も同様で、はじめは大河ドラマを観る意欲はほぼ無かった。
題材に対しては、「蔦屋重三郎?誰それ?」「江戸のメディア王?ふーん、大河っぽくないな」という感じだったし、主演の横浜流星に対しても、2025年の序盤時点では、大河ドラマの主演俳優としての“格”に訝しい印象を持っていたというのが正直なところだった。
2025年も半年が過ぎた頃だったか、“きっかけ”は何だったかと振り返ってみれば、その一つは確実に映画「国宝」だったように思う。
「歌舞伎」という、江戸時代において、古典芸能として基礎が築かれた文化であり、娯楽に人生をかける人間たちの業をあぶり出したあの作品を鑑賞したことで、私の江戸文化に対する興味関心はより一層深まったことは間違いない。
そして、同作にも出演していた横浜流星という俳優が持つ“華”と、醸し出される“人たらし”感を感じ取ったことが、明確な“きっかけ”だったと思う。
また、私自身が、映画をはじめ、漫画、小説、落語、アニメと、現代におけるあらゆる“メディア”と“エンタメ”を敬愛する好事家の端くれとして、“江戸のメディア王”のドラマは、やっぱり観ないわけにはいかないのではないか、とんでもない後悔をすることにならないかという思いに駆られ、半年遅れで15年ぶりの大河鑑賞に至った。
前置きがずいぶん長くなってしまったけれど、半年間の遅れを巻き返して、何とか全話を2025年内に観終えることができた今、思うことは、やはり現代のエンタメ好きの一人として、このドラマを避けることは出来なかったし、もしあのままスルーしてしまっていたならば、それは自覚のない不幸を背負うことだったとすら思う。
それは、主人公である蔦屋重三郎という人物に対する認識の有無や、江戸文化への傾倒の程度に関係なく、この現代の“浮き世”に生きる人間の一人ひとりにおいて、実は共通する要素だったのではないかと思える。
本作が全48話に渡って描き連ねていたものは、我々と同じく、その時代の市井に生きる人間たちの苦しみと怒り、そしてその中で必死に繋ぎ止めた「娯楽」を楽しむ“心”そのものだった。
遊郭の街吉原で生まれ育ち、遊女たちの哀しさと強さを目の当たりにしつつ、自分自身もあらゆる側面で虐げられ続けた重三郎が、生涯に渡って信じ続けたのは、一服の清涼剤となり得る本の力であり、一枚の絵の力であり、人々を魅了する娯楽の力であった──そして何よりも、その娯楽に触れることで、そこから再び踏み出す何も持たざる人間の強さだったのだと思う。
本作で描き出された江戸中期は大きな戦もなく、故に大河ドラマで描き出されることもこれまで無かったようだ。歴史上における“ヒーロー”不在のこの時代は、大局的な歴史観から見れば天下泰平の平穏な時代だったのかもしれない。
ただ、だからといってこの時代に生きた人たちがみな幸福で満ち足りていたのかと問われれば、無論そんなことはないだろう。広く光が射していたとしても、その傍らには必ず影があり、闇が生じる。そしてその中で生き続ける人々は必ず存在する。
それは、今現在、“平和”で“安全”とされる現代社会を生きるこの国の私たちの社会を見ても明らかなことだ。
美しく気高き花魁も、その凛とした表情の裏では心身を常に犠牲にし続ける。
実母に売られ鬼の子と呼ばれた天才絵師は、本心を秘め続け、その心情をひたすらに描き続ける。
一人未来を見ていた奇才学者は、時代に使われ、そして時代の闇に押し潰される。
主人公蔦屋重三郎をはじめ、このドラマに登場する人物のほとんどすべては、生きづらい浮き世において、それぞれの辛酸と苦悩と共に生き、絶望の闇に覆われ続けながらも、一点の光を見据えて必死に生き抜く。
その僅かで不確かな光の中に存在していたものが、娯楽であり、それに興じ、戯けることこそが、市井に生きる人々の“プライド”だったと思うのだ。
数百年の年月を経てもなお、この浮き世は、多くの人にとって生きづらい。それは多分、この先も未来永劫変わらないことなのかもしれない。
だからこそ、この大河ドラマで描き出された決して偉人でも、ヒーローでもなく、ただ必死に戯け続けた“べらぼう”たちの生き様は、時代を超えた普遍的な「矜持」として、心に突き刺さった。
少なからず生きづらさを感じ続け、その都度、娯楽やエンタメに救われ続けてきた現代人の一人として、その文化の基礎を築き上げた江戸時代の“べらぼう”たちに向けて、改めてあの謝辞と共に頭を下げてこのレビューを締めたい。
「ありがた山のかたじけなすび」
Information
| タイトル | べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~ |
| 製作年(放映期間) | 2025/01/05 ~ 2025/12/14 |
| 製作国 | 日本 |
| 演出 | 大原拓 |
| 深川貴志 | |
| 小谷高義 | |
| 新田真三 | |
| 大嶋慧介 | |
| 寺崎英貴 | |
| 寺井純玲 | |
| 西尾友希 | |
| 脚本 | 森下佳子 |
| 撮影 | |
| 出演 | 横浜流星 |
| 安田顕 | |
| 小芝風花 | |
| 染谷将太 | |
| 橋本愛 | |
| 福原遥 | |
| 桐谷健太 | |
| 宮沢氷魚 | |
| 中村隼人 | |
| 井之脇海 | |
| 高梨臨 | |
| 小野花梨 | |
| 城桧吏 | |
| 中川翼 | |
| 島本須美 | |
| 高岡早紀 | |
| 中村蒼 | |
| 橋本淳 | |
| 津田健次郎 | |
| 古川雄大 | |
| 岡山天音 | |
| 本宮泰風 | |
| 正名僕蔵 | |
| 伊藤淳史 | |
| 山路和弘 | |
| 六平直政 | |
| 安達祐実 | |
| 水野美紀 | |
| 飯島直子 | |
| かたせ梨乃 | |
| 尾美としのり | |
| 井上祐貴 | |
| 映美くらら | |
| 風間俊介 | |
| 西村まさ彦 | |
| 矢島健一 | |
| 嶋田久作 | |
| 生田斗真 | |
| 高橋英樹 | |
| 冨永愛 | |
| 原田泰造 | |
| 片岡愛之助 | |
| 眞島秀和 | |
| 高橋克実 | |
| 石坂浩二 | |
| 里見浩太朗 | |
| 渡辺謙 | |
| 市原隼人 | |
| 片岡鶴太郎 | |
| えなりかずき | |
| ひょうろく | |
| 又吉直樹 | |
| くっきー! | |
| 北村一輝 | |
| 井上芳雄 | |
| 榎木孝明 | |
| 綾瀬はるか | |
| 鑑賞環境 | インターネット(U-NEXT) |
| 評価 | 9点 |
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