
評価: 10点
Story
明治の末、大阪の南河内の貧しい家に生まれたヒロイン、竹井千代は小学校にも満足に通わせてもらうことができず、9歳のときに、道頓堀の芝居茶屋に女中奉公に出される。
そこで目にしたのが、華やかな芝居の世界。
彼女は女優を志し、芝居の世界に飛び込んでいく。 公式サイトより 連続テレビ小説 おちょやん 完全版 BOX1 PR動画舞台は大阪のど真ん中――女優の道にすべてを懸ける女性の、笑って、泣けて、人情あふれる物語。
Review
「私はただ、しようと思うことは是非しなくちゃならないと思っているばかりです」
「私には神聖な義務がほかにあります!」
「私自身に対する義務ですよ!」
「何よりも第一に、私は人間です。ちょうどあなたと同じ人間です。少なくともこれからそうなろうとしているところです」
「これから一生懸命わかろうと思います。社会と、私と、どちらが正しいのか、決めなくてはなりませんから!」
“終戦”を迎えた主人公・千代が、抱え込んできた悲しみと鬱積を吐き出すように、かつて自分が女優を志すに至った「原点」である戯曲『人形の家』の台詞を繰り返し唱える。
戦争という創作ではない“悲劇”の結末に押し潰されそうになりながら、それでも彼女は、女優として生きていくことを改めて決意し、自らを鼓舞する。
それは、憧れの象徴だった人様の台詞が、自分自身の言葉になった瞬間だった。
かつての「芝居」が、現実の「人生」をオーバーラップしていく。
このドラマの中で繰り返し用いられてきた、劇中劇を活かしたストーリーテリングの妙技が極まったシーンでもあったと思う。
そして、その主人公の苦悩と葛藤の様は、今この瞬間の世界を渦巻く“禍”の中で苦しむ人々の心情とも重なり、非常に多層的な物語構築を成していたと、改めて感じる。
実に10年ぶりに「朝ドラ」をオンタイムで毎朝見た。
ちょうど出社時刻が朝ドラの放送終了後の時間帯に変わったこともあり、個人的にとても見やすい生活サイクルになっていたことは、幸福な巡り合わせだったなと思う。
序盤の何週かは見過ごしていたため、最終回を見終えて“おちょやんロス”もそこそこに、U-NEXTを仮契約して未鑑賞分を掘り起こした。
第一週目から、その先に繰り広げられるドラマのテーマと伏線が集約されていたことを知り、見事なドラマの作劇に改めて感嘆した。
序盤のシーンの中で、ご丁寧に一筆したためられていたことからも明らかなように、このドラマは、「家」という一文字が内包する様々な意味と価値をめぐる物語だった。
「家」を無くした主人公が、居場所としての家と、家庭と、家族を求め、それらの本当の意味を知っていく。
様々な「家」の在り方があり、「これが正しい」なんて答えは決して存在しない現代社会において、このドラマが一人の女性の生き様を通じて時代を超えて伝えたことは、とても意義深く、また真摯だったと思う。
というように、“芝居”を描くドラマだっただけあって、作劇の上手さ、深さにおいては枚挙にいとまがない。
そして、それに匹敵するトピックスとして挙げなければならないのは、やはりヒロインを演じた主演女優の存在感だろう。
杉咲花。彼女の女優としての唯一無二の輝きが、このドラマの価値を幾重にも増幅させていたと強く思う。
2013年のTBSドラマ「夜行観覧車」以来、彼女のファンだが、喜怒哀楽すべての感情の起伏を、これほどまで豊かに魅力的に表現しきる若手女優は他にいまい。(宮沢りえと共演した映画「湯を沸かすほどの熱い愛」も素晴らしかった)
主題歌のタイトルにも明示されていた通り、このヒロインの“泣き笑い”がすべての“エピソード”を魅力的に彩り、ドラマに対する味わいと愛着をより一層深めていたと思う。
「人生は喜劇だ」
と、このドラマの登場人物たちは節々で発する。
それはもちろん、波乱の時代、生きづらい時代の中で、悲しみや苦しみを呑み込んできた人たちが、それでも生き続けるために辿り着いた境地であろう。
“泣き笑い”の人生の半ば、「おもろいなあ!」と自らの半生を振り返るヒロインの明るい表情には、勇敢さと慈愛が満ち溢れていた。
今、こんな時代だからこそ、彼女の笑顔は日本人の背中をそっと押す。

Information
| タイトル | おちょやん |
| 製作年(放映期間) | 2020年11月30日〜2021年5月14日 |
| 製作国 | 日本 |
| 演出 | 梛川善郎 |
| 盆子原誠 | |
| 脚本 | 八津弘幸 |
| 撮影 | |
| 出演 | 杉咲花 |
| 成田凌 | |
| 篠原涼子 | |
| トータス松本 | |
| 中村鴈治郎 | |
| 名倉潤 | |
| 宮田圭子 | |
| 宮澤エマ | |
| 星田英利 | |
| 井川遥 | |
| 鑑賞環境 | TV(地上波) |
| 評価 | 10点 |
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