「ザ・サークル」映画レビュー “避けられない「未来」と、「悪人」になりきれないトム・ハンクス”

ザ・サークル 2020☆Brand new Movies

ザ・サークル

評価: 4点

Story

世界No.1のシェアを誇る超巨大SNS企業〈サークル〉。憧れの企業に採用され、奮起する新人のメイ(エマ・ワトソン)は、ある事件をきっかけに、創始者でありカリスマ経営者のイーモン(トム・ハンクス)の目に留まり、自らの24時間をすべて公開するという新サービス〈シーチェンジ〉のモデルケースに大抜擢される。瞬く間に1000万人超のフォロワーを得て、アイドル的な存在になるのだが―― Amazon より

映画『ザ・サークル』本予告 11月10日(金)公開
\エマ・ワトソン×トムハンクス/11月10日全国ロードショー世界No.1のシェアを誇る巨大SNS企業〈サークル〉。創始者でありカリスマ経営者イーモン(トム・ハンクス)の掲げる理想は、誰もが隠し事なく、いつでもつながり互いの体験をシェアしあう…more

 

Review

トム・ハンクスが新型コロナウイルス感染との報を受け、映画ファンとして少なからず不安が深まる今日この頃。
世界的スターや著名人における感染の報を聞くと、いよいよ“パンデミック”の様相だなと流石に危機感は募る。

そんなわけで、名優トム・ハンクスを“応援”する意味も込めて、本作を鑑賞した。

基本的に、人格者の“善人”しか演じない印象のトム・ハンクスが、何やら悪意に満ちた人物像を演じている様は、公開時から気になっていた。
描き出されるテーマ的にも、2010年代以降世界を席巻し、もはやサーバースペースという領域を超えて、現代社会を“支配”しつつある“GAFAGoogleAmazonFacebookApple)”を筆頭にした巨大IT企業に対して、ほぼ名指しでその「功罪」を追求していることは明らかで、実際に各社のサービスに“依存”してしまっている“1ユーザー”として非情に興味があった。

が、鑑賞後の率直な感想としては「ひどく中途半端だな」というところ。
“社会風刺映画”として、消化不良感は否めないし、きっぱりと面白くはなかった。

いろいろと問題はあろうが、最たる弱点は、お話としての踏み込みの甘さだろう。
現実社会に君臨する“GAFA”に対して、ほぼ直接的に言及し、警鐘を鳴らしているわりに、肝心な部分で希薄さを感じてしまった。それは創作に当たっての「尻込み」と言ってもいいだろう。

最先端企業の革新的な価値と華やかさを魅力的に映し出しつつ、その巨大企業が生み出したツールやサービスを“ユーザー”である我々人間の一人ひとりがどう「活用」するのか?という問題提起。
そのストーリーの本筋は間違っていないし、やはり興味深い。ただストーリーの中で息づくキャラクターたちの描写があまりにも類型的で軽薄だった。

主演のエマ・ワトソンも、トム・ハンクスも、演者としてキャラクターにマッチしていたとは思うし、精力的な演技を見せていたとは思うけれど、人物描写の軽薄さが響き、人間としてまったく魅力的に映らなかった。
それはその他の脇役についても同様で、ジョン・ボイエガ(「スター・ウォーズ」シリーズ)やカレン・ギラン(「アベンジャーズ」シリーズ)ら割と豪華なキャスト陣が、何やら意味深で印象的な佇まいは見せてくれるが、言動や心理描写が尽く浅いので、「結局、何がしたかったの?」と思ってしまう。

トム・ハンクスは人間力の高いパブリックイメージを表面的には活かしつつ、行き過ぎた企業戦略を強行するCEO役を演じていたが、悪役に徹することができず、終始あまりにも中途半端な立ち位置だった。
ラスト、主人公の行動により、辣腕のCEOはどのような帰着に至ったのか。結果的に善人であったとしても、悪人であったとしても、その顛末はきちんと描くべきだったと思う。

一方で、ある意味“放りっぱなし”なエンディングを選んだ意図は理解できる。
詰まるところ、巨大なIT企業の英知と戦略がもたらした「未来」はもはや避けられるものではない。
現実社会においても、“システム”が進化していくことは止められないし、止めるべきではないだろう。
そこで頼らざるを得ないのは、結局、人間の「善意」だということ。爆弾も、核エネルギーも、その「発明」自体に罪はないわけで。罪の対象は、常に「人間」そのものである。

そういうこの映画の核心を、もっと深く抉り出せていたならば、この映画はこんな中途半端な“円”ではなく、もっと“尖った”作品になっていただろう。

 

エンドロールで、“ビル・パクストン”の名前を見て、難病を抱えた主人公の父親役だったことに気づいた。
が、その直後に「For Bill」の文字。この作品の直後に61歳の若さで亡くなったそうで。「アポロ13」「ツイスター」をはじめ、僕自身が映画を本格的に鑑賞し始めた90年代のハリウッド映画を彩った俳優の一人だったので、悲しい。

兎にも角にも、とりあえずトム・ハンクスは、コロナを治そう。

 

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Information

タイトル ザ・サークル THE CIRCLE
製作年 2017年
製作国 アメリカ
監督
ジェームズ・ポンソルト
脚本
ジェームズ・ポンソルト
デイヴ・エガーズ
撮影
マシュー・リバティーク
出演
エマ・ワトソン
トム・ハンクス
ジョン・ボイエガ
カレン・ギラン
エラー・コルトレーン
パットン・オズワルト
グレン・ヘドリー
ビル・パクストン
鑑賞環境 インターネット(Amazon Prime Video・字幕)
評価 4点

 

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画像引用:https://www.imdb.com/?ref_=nv_home

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