評価:
7点Story
250年にわたり平和が続いてきた国内が、開国するか否かで大きく揺れ動いていた江戸時代末期。貧窮して藩を離れ、農村で手伝いをしている浪人の杢之進(池松壮亮)は、隣人のゆう(蒼井優)やその弟・市助(前田隆成)たちと、迫り来る時代の変革を感じつつも穏やかに暮らしていた。ある日、剣の達人である澤村(塚本晋也)が現れ、杢之進の腕を見込んで京都の動乱に参戦しようと誘いをかける。旅立つ日が近づくなか、無頼者(中村達也)たちが村に流れてくる・・・・。時代の波に翻弄されながらも、人を斬ることに疑問をもつ侍と彼に関わる人々を通して、生と暴力の問題に迫る。観る者の心に刃を突きつける衝撃作。公式サイトより
映画『斬、』予告編映画『斬、』予告編公式サイト:zan-movie.com公式Facebook:facebook.com/zan.movie2018Twitter:twitter.com/zanmovie第75回ヴェネチア国際映画祭 コンペティション部門正式…more
Review
「死」自体を含めた「生」に対する“衝動”。
そのあまりにも荒々しく、場面によっては酷く稚拙にすら見える映画世界は、とてもじゃないが、世界に名を知れた還暦間際の映画監督の作品だとは、“普通”思えない。
池松壮亮や蒼井優が画面に登場していなければ、どこかの映画学校の学生が制作したのかと誤解してしまう“雰囲気”が無くはない。
が、しかし、これが「塚本晋也」の映画作品である以上、“普通”という言葉で収まるわけもなく、その稚拙さも含めた荒々しさに、只々、心がざわめく。
この映画は、幕末の農村を舞台とした時代劇ではあるが、一般的な「時代劇」という価値観に言い含められる様式や整合性、論理性などはまるで通用しない。
そこに存在したものは、60歳手前にして、相変わらずイカれた目をしている鬼才監督自身の「衝動」であった。
「1本の刀を過剰に見つめ、なぜ斬らねばならないかに悩む若者を撮りたいと思った」
と、塚本晋也監督はこの作品の発端について言及している。それは、監督自身のインサイドで発生した衝動に他ならない。
ある時、真剣を見つめた彼は、衝動的にその刃を振り下ろしてみたくなり、そこに纏わる「生」と「死」を描き出さずにはいられなかったのだろう。
そして、その衝動は、監督自身が演じた“澤村次郎左衛門”というキャラクターの狂気に集約されている。
当然ながら、真っ当な「時代劇」を期待して本作を鑑賞すると面食らい、最終的には呆然としてしまうことは避けられないだろう。
明確な「死」に直面した主人公の侍は、無意識下で拒否する体調に苦しみ、その一方ではリビドー(性衝動)を抑えきれない。
そして、文字通り精も根も尽き果てる。
それは「時代」の急激な変動を目の当たりにして、“生き方”を変えざるを得ない人間そのものに生じた本能的な「拒否反応」のようにも見えた。
その繊細な心情を身一つで表現するに当たって、主演の池松壮亮は適役だったと言えよう。
そういえば、彼の初出演作映画は「ラストサムライ」(当時12~13歳)。あの映画も、幕末の農村が舞台となっていた。
全く関係ない映画作品ではあるけれど、両作のキャラクターとそれを演じた一人の俳優の成長を通じて、何か運命めいたものも感じる。
そして、蒼井優が久しぶりに“ブチ切れた”演技を見せてくれており、長年この女優の大ファンの者としては、彼女が体現するあどけなさ、危うさ、妖しさ、その全てが印象的だった。
山奥を彷徨う“視点”でのエンドロールを経て、果たして主人公は「生」を繋ぎ止めることができたのか否か。
「死をも克服している可能性すらある」と、“澤村次郎左衛門”と全く同じ風貌の“学会の異端児”の台詞が、どこからか聞こえてきそうだ。

Information
タイトル | 斬、 KILLING |
製作年 | 2018年 |
製作国 | 日本 |
監督 | 塚本晋也 |
脚本 | 塚本晋也 |
撮影 | 塚本晋也 |
林啓史 | |
出演 | 池松壮亮 |
蒼井優 | |
塚本晋也
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中村達也
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前田隆成
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大槻修治
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辻岡正人
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鑑賞環境 | インターネット(Amazon Prime Video) |
評価 | 7点 |
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画像引用:http://zan-movie.com/
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