「226」“いまこの世界のきな臭さに感じる、過去の愚行と悲哀を学ぶ必要性”

2026☆Brand new Movies

評価:  6点

Story

昭和11年2月26日。昭和維新を掲げた陸軍の青年将校たちは、1500人にも及ぶ決起部隊を率いてクーデターを起こした。彼らは雪の降る中、岡田首相、高橋蔵相、斎藤内大臣、鈴木侍従長などを襲撃。翌27日に戒厳令が施行され、決起部隊は原隊への復帰命令を受けた。原隊からの食糧提供も止められ、将校たちは自分の家族や恋人のことを思い返す。 allcinemaより

 

Review

日々のニュースでは、各国の権力者や指導者の傍若無人な振る舞いや、横柄な態度、それに伴う破壊と人々の悲壮が、“きょうのできごと”として当たり前のように伝えられる。
世界における戦争や紛争が止まないこと自体は、今に始まったことではなく、今年45歳になる私が生まれてからもずっと見聞きしてきたことではある。
ただし、この数年徐々に、漂ってくる「臭い」が変わってきているようにも感じる。俗に言う“きな臭さ”を、この国の空気の中にも微かに感じ始めている。
きっとそう感じているのは、自分だけではなく、“平和ボケ”しているはずのこの国の多くの人々が同様の空気感を感じ取っているのではないかと思える。

そんな折、まさに「きな臭さ」が国中に立ち込めていたであろう時代の映画を観たくなり、配信サービスのマイリストに長年保持されていた本作を鑑賞した。

中学三年生の娘が、歴史の授業で習った「五・一五事件」や「二・二六事件」のことを聞いてくるが、正直私自身よく分かっていなかった。
それぞれ当時の軍部で巻き起こったクーデターであることくらいは認識していたけれど、それがなぜ起き、時代においてどのような影響を及ぼしたか、娘に対して説明できる知識は無かった。

今回本作を観て、その前後の時代背景の概要は把握したけれど、実際の空気感や、当時の日本社会の“実感”を正しく感じ取ることは難しく、そういう意味で、本作の本質も正しく理解できているとは言えないだろう。

ただ、本作で描かれる陸軍青年将校らの言動から、当時の日本社会、そして日本人そのものの愚かさと悲しさは感じられた。
意気込んで颯爽とクーデターに臨んだ青年将校たちの鼻息の荒さが、「現実」を目の当たりにし、一転して打ちひしがれ、消沈し、尻込みする姿には、単なる愚かさを超えた哀しさを覚えた。
そして歴史は、彼らの行動によって、むしろ彼らの掲げた理想とはまったく逆方向へと突き進んでいく。その圧倒的な「皮肉」に触れたとき、彼らだけではなく、人間という存在そのものの愚かさと悲しさを禁じ得なかった。

「二・二六事件」という史実に対する知識量や見識の深さによって、本作に対する評価や所感は大きく異なるのだろうけれど、個人的には、事件をある側面ではドキュメンタリックに、そしてある側面ではシンボリックに映し出す見応えのある映画だと思えた。
陸軍青年将校を中心とした軍部の面々を演じたキャスト陣も、それぞれ印象深い。
特に安藤輝三大尉を演じた三浦友和は、人格者としてこのクーデター行為自体に懸念を示しつつも、最後には軍人としての己の使命と責任を激情と共に全うする様を、広い振れ幅をもって演じきっており素晴らしかったと思う。
主人公野中四郎大尉を演じた萩原健一も、劇中大きな見せ場はない反面、ラストの自決シーンでは、この俳優ならではの独特の間と空気感で、唯一無二の人間描写を見せてくれている。

ただ、概ね満足度が高い映画だったのだけれど、最後の各人物の回想シーンがあまりにも蛇足だった。
ことが終わり、取ってつけたように各将校たちが、家族や妻、恋人と幸せな時を過ごす様が映し出される。青年将校たちの一人ひとりの人間模様を描く上で、意味のないシーンだとは思わない。この事件の後、将校たちのほとんどは処刑されたわけなので、見せ方によっては本作をより芳醇なものにし得たかもしれない。
けれど、映画の最後におざなりに繋ぎ合わせたようにしか見えず、妻役、恋人役に有名女優を配役していることも相まって、“オールスター映画”の名目のもとに強引に付け加えられた印象も拭えないため、とても軽薄な余韻として残ってしまう。
この“蛇足”が無ければ、本作への印象と評価は、もっと敬意を込めて高いものになっていたと思えてならない。

さて、この事件(1936年)からちょうど90年となる現在2026年。この国は、そして社会はどう変容しただろうか。
本作で描き出された愚かさや悲しさは、当時の日本社会全体の未成熟さと、それに伴う混沌によって生じたものだろう。では、それから90年が経過した今、この国の社会は成熟したと言えるのだろうか。
もちろん、破壊と悲劇の後に、この国は目覚ましく成長し、発展し、今に至る。その時代の歩みを否定すべきではない。でも、今一度過去の悲劇、かつての愚行に目を向け、正しく学び直す姿勢も、現在を生きる者の一人として求められているように感じる。

どこからか漂ってくる“きな臭い”空気感は、その必要性を強く訴えかけているように思えてならない。

 

Information

タイトル 226
製作年 1989年
製作国 日本
監督 五社英雄
脚本 笠原和夫
撮影 森田富士郎
出演 萩原健一
三浦友和
竹中直人
本木雅弘
加藤昌也
川谷拓三
佐野史郎
安田成美
有森也実
南果歩
名取裕子
鑑賞環境 Web配信(U-NEXT)
評価 6点

 

Recommended

https://amzn.to/4wdZm5j

コメント

タイトルとURLをコピーしました