人生は、いつ終わるか誰にも分からず、故に果てしないからこそ、希望に溢れ、素晴らしいのだと思う。
老いた状態で生まれ落ち、次第に若返っていくという男の数奇な人生は、同時に明確な“終わり”を常に意識し、感じ続けなければならない過酷過ぎる人生だったと思う。
その過酷さが、イコール悲劇では決してないのだけれど、彼が携えるどこまでいっても拭いきれない「悲哀」に胸が詰まり、その彼を愛した女の人生に涙腺が緩んだ。
とても長い映画ではあるが、その尺の長さは、主人公の人生を生い立ちから描く上で必要なもので、終盤になるほど序盤の一つ一つの描写がとても効果的に効いてくる。
ついには、映画の終わりと共に、主人公の人生が潰えてしまうという必然すらも、悲しくなってくる。
皺だらけの老人から、どんどん若返り美しくなっていくブラッド・ピットの様は、ファンの女性にはたまらなかっただろうし、演技の質もとても高かった。
ただ個人的にもっとインパクトが大きかったのは、ケイト・ブランシェットの女優としての美しさと巧さ。
可憐な10代の少女を演じたかと思えば、死を間近にする老婆に転じる。圧倒的なその“女優力”は、もはや「現役最高女優」と言って過言でないだろう。
この映画は、決して短絡的に、面白かった、悲しかった、楽しかったとは言えない。
様々な感情が常に混ざり合って展開し、誰にも平等に存在する「死」へと向かっていく映画だ。
それは、決して悲劇的な意味ではなくて、その揺るがない部分こそ人生の面白さであり、素晴らしさであろう。
そういうことを、とても奇妙な一生を送った男と、その男を愛した女の「人生」の中で、ユニークに、しっかりと描いた作品だと思う。
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生 The Curious Case of Benjamin Button」
2008年【米】
鑑賞環境:映画館
評価:8点
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