おヒサシネマ!「耳をすませば」“30年の年月と共に変容した輝きと、寝床に向かう娘の言葉”

スバラシネマReview

評価:  10点

Story

本が大好きな中学生の少女・雫。彼女はある時、図書カードに何度も連ねられた男子の名を見つける。その男子・天沢聖司の名に、淡い恋心を抱く雫。だが実際の天沢は、ぶしつけで粗野なヤツだった・・・。 allcinemaより

 

Review

観るつもりではなかったけれど、金曜ロードショーで放送されていた本作を、つい最後まで観てしまった。
本当は、ちょうど主人公と同じ年齢の娘と一緒に観てみたかったけれど、彼女は映画の序盤でさっさと寝床に向かってしまった。

1995年の公開から30年あまり。もう何度このアニメ映画を観たことか定かではないけれど、一旦観始めてしまうとよほどの事由がない限り離れがたい。
それは本作に限らず、ほぼすべてのジブリ作品に共通する性質であり、込められたマジックだろうと思える。
特に本作の場合、自分自身が歳を重ねるほどに、そのマジックの力が増し、“引力”のようなものが強まっているように感じる。

公開当時、初めて本作を観た時は、正直なところ作品としてピンとこなかった。
改めて調べてみると、本作公開年の1995年、私は14歳の中学3年生。つまり、私自身もこの映画の主人公月島雫と同い年だった。
同じ年齢だったからこそ、主人公たちの言動に対して、ことほどさように照れ臭さや青臭さを感じてしまい、受け入れ難かった感覚がある。

ほぼ初めての恋心にときめき、無責任に夢を追い、不器用に思い悩み、苛立ち、泣いて、眠る──。そんな主人公の等身大に共感できなかったのは、まさに自分自身が、まだ何の価値も見いだせず、理解もできない不格好な“原石”だったからだろう。

それから30年の年月が経ち、その間何度も本作を観たけれど、再鑑賞するほどに、輝きが増し、ふとしたシーンで涙が溢れる。そして新たな発見がある。

今回、観るつもりがなかったにも関わらず思わず引き付けられてしまったのは、本作の冒頭から繰り広げられる“生活”シーンの見事さを感じたことも大きい。
東京郊外のベッドタウンを舞台にした1995年当時の生活描写には、30年の年月を経て、もはや情緒的な味わいを感じた。
主人公が生活する、都市環境や家族構成、そしてその生活水準までもが、冒頭数分間の何も起こらないシーンの中でしっかりと表現されている。
そのアニメーション表現の巧みさからは、かつて黒澤明や小津安二郎ら日本映画史の巨匠たちが生み出した空間演出の巧さに通じる日本映画の真髄が感じられた。

特筆すべきは、主人公月島雫が家族と暮らす自宅の室内描写だろう。
多摩市の団地をモデルとしているであろうその室内空間は、中学生の雫を含む4人家族では明らかに手狭になっており、それに伴う家族同士の距離感や窮屈感が、多感な主人公にとっては、ときに鬱積として、ときに救済として表現される。
家族同士の他愛もないやり取りや会話を含めて、この生活空間の描写こそが、実は本作における肝だったのだと改めて気づいた。(明らかにキャパオーバーの蔵書量もこの家族全員のキャラクター性を雄弁に表現している)

そしてその自宅の狭い台所で主人公の父親が娘に言って聞かせる言葉が、私の中では長い間大切な教訓として息づいている。

「でもな 人と違う生き方はそれなりにしんどいぞ。何が起きても 誰のせいにも できないからね。」

30年という年月をリアルに生きていく中で、この映画に対する価値観が大いに変動していったのは、作中に登場する大人たちの言葉の一つひとつに理解が深まり、大きくなっていったことも要因の一つであろう。

歳を重ねるごとに、自分自身が“原石”であったあの頃から遠ざかってしまうことに対して、焦燥感や喪失感を感じてしまう年代もあったように思う。
けれど、40代も後半に差し掛かろうとしている今、本作から受け取る感覚はまた少し変容してきている。
大人になる手前の若者たちの、不器用で粗削りの“輝き”を描き出した作品だと思っていたけれど、本作が描き出していたものは決してそれだけではなかった。

二人の娘を大切に育て上げながら、自分自身の人生における目標や価値も決しておざなりにはしていない主人公の両親しかり、遠い昔に分かれた恋人との思い出と後悔を大切に抱えながら古道具屋を営む老主人しかり、そこにあらわれていたのは年齢に関係なく存在する人生の“輝き”だった。
そういうことを、自分自身の人生を通じて幾度も観てきた作品の中で、はたと気づき、また涙が溢れた。

寝床に向かった中学3年生の娘は、すぐに引き返してきて、窓外の夜空を見て「満月だよ」と一言残していった。
今回一緒に本作を観ることは叶わなかったけれど、まあこれでいいか、と思えた。

 

Information

タイトル 耳をすませば
製作年 1995年
製作国 日本
監督 近藤喜文
脚本 宮崎駿
作画監督 高坂希太郎
声の出演 本名陽子
高橋一生
小林桂樹
露口茂
立花隆
室井滋
山下容莉枝
佳山麻衣子
中島義実
飯塚雅弓
高山みなみ
岸部シロー
笛吹雅子
江川卓
中村晴彦
鑑賞環境 地上波放送
評価 10点

 

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