「ヤクザと家族 The Family」“共感はしない。それでも、そこには人生があり、家族がある”

2024☆Brand new Movies

評価:  8点

Story

ヤクザという生き方を選んだ男の壮大なヒューマンストーリー。 自暴自棄になっていた少年期にヤクザの世界へ足を踏み入れた男を中心に、暴対法によって変わっていった環境と共に1999年、2005年、2019年と3つの時代で見つめていく、一人の男とその【家族・ファミリー】の壮大な物語。 Filmarksより

映画『ヤクザと家族 The Family』予告篇
1999年、2005年、2019年、変わりゆく3つの時代の価値観で切り取ることで、「ヤクザ」という生き方を選んだ男たちの生き様を描く映画『ヤクザと家族 The Family』。時間の流れの中で【家族・ファミリー】の存在が浮かび上がってくる壮…more

 

Review

現代のこの国における“ヤクザ”という存在と、彼らが織りなす“家族”の物語。
タイトルそのままの映画であり、故に極めてアンバランスで、安易な感情移入をさせないシビアさと、心地悪さに溢れた映画世界であった。
鑑賞直後は、エンドロールをただただ“神妙な面持ち”で見送るしか無かった。

この特有の心地悪さや感情移入ができない人間模様に起因するものは、無論、本作の主人公らをはじめとする登場人物たちが、“ヤクザ”であるということに尽きる。
悲しく、痛々しく、ほぼ救いの無い物語であるが、綾野剛演じる主人公や、舘ひろし演じる親分、市原隼人演じる子分らに同情することは無い(できない)。
人生においてどのようなバックグラウンドがあろうと、不幸な生い立ちであろうと、彼らが“ヤクザ”という生き方を選んだのは、他の誰でもなく彼ら自身の責任だろうから。
結果として、どのような残酷で残虐な運命を辿ろうとも、そこに同情はなく、「自業自得」だろうと思わざるを得ないし、社会的な不遇を訴えられたところで「お門違いだ」と言わざるを得ない。
尾野真千子演じるヒロインや、寺島しのぶ演じる焼肉屋の未亡人ら、“家族”側は運命を翻弄されて人生を蹂躙された被害者のようにも見えるけれど、“ヤクザ”である彼らを受け入れてしまっている短絡さや一寸の隙は、やはり否めない。

そう、そういう明確な一線を引いて“ヤクザ”とその“家族”たちの「人生」を映し出し描きつけていることが、この映画の最も優れた要素だったと思うし、この題材のヒューマンドラマとして極めて真摯な立ち位置だった。
たとえ虚栄と暴力によって我が物顔で街を牛耳っているように見えたとしても、それは極めて希薄なまやかしであり、彼らがこの社会の“最底辺”であるということを、本作は“家族”という慈愛を内包することでより一層残酷に突きつけている。

藤井道人監督は、2019年の「新聞記者」という映画でも、日本というこの国と、そこに巣食う私たち日本人が孕む根幹的な闇をあぶり出していたが、本作でもまさにその真骨頂が表れている。画面のアスペクト比の切り替えによって、時代の変遷と、社会における“ヤクザ”に対するイメージの変化を表現した映画的手法も見事だった。
他の作品を観られていないが、鑑賞2作品にして骨太な社会派映画監督としての地位を確立していると感じる。

綾野剛、舘ひろしをはじめとするキャスト陣も総じて良かった。
特にヤクザの組員として脇を固めた市原隼人、北村有起哉らの存在感が大きく、彼らが演じた零細ヤクザの組員たちが、暴対法の締め付けの中で果てしなく落ち続ける悲痛と悲哀が、本作の根幹的テーマを体現していたと思う。

繰り返しになるが、“ヤクザ”という害悪に塗れた業を自ら背負っている以上、彼らに同情や共感はしないし、感情移入はしづらい。
ただそれでも、そこには人生があり、家族がある。
屈折し、正道でなかろうとも、心から人を思い、人を愛した。それも偽りのない事実であろう。
後悔と侮辱に埋め尽くされ、社会から非難され否定されて、世界の片隅でひっそりと侘びしく息絶えた人生であっても、そこから生まれた新しい“未来”に罪はない。

それは、必ずしも“ヤクザ”という存在に限らず、この社会の奥底で存在するすべての人間たちの有り様だったように思える。

 

「新聞記者」映画レビュー “この国全体の怯えと共に、闇は益々深まる”
ラスト、彼が示したものは、この国の「限界」か。それとも、未来のための「一歩」か。 8年ぶりに総理大臣が変わったこの国の人々は、大きな希望も期待も持てぬまま、諦観めいた視線で国の中枢を眺めている。諦めを理由に無知でいることは罪だ。

 

Information

タイトル ヤクザと家族 The Family
製作年 2021年
製作国 日本
監督
脚本
撮影
出演
鑑賞環境 インターネット(Netflix)
評価 8点

 

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