「新聞記者」映画レビュー “この国全体の怯えと共に、闇は益々深まる”

新聞記者2020☆Brand new Movies

新聞記者

評価: 8点

Story

東都新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)のもとに、大学新設計画に関する極秘情報が匿名 FAX で届いた。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、ある強い思いを秘めて日本の新聞社で働いている彼女は、真相を究明すべく調査をはじめる。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原(松坂桃李)は葛藤していた。「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。愛する妻の出産が迫ったある日彼は、久々に尊敬する昔の上司・神崎と再会するのだが、その数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。真実に迫ろうともがく若き新聞記者。「闇」の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚。二人の人生が交差するとき、衝撃の事実が明らかになる! Filmarksより

映画『新聞記者』6.28(金)公開/予告編[内調 ver.]
各界騒然!ここまで見せて大丈夫なのか!?首相直属のスパイ機関 #内閣情報調査室 に迫る女性記者。この映画は、ただのフィクションではない。前代未聞のサスペンス・エンタテイメントが遂に解禁。#あなたはこの映画を信じられるか?◤新聞記者◢6月28日(金)公開シム・ウンギョン...

 

Review

ラスト、彼が示したものは、この国の「限界」か。それとも、未来のための「一歩」か。

8年ぶりに総理大臣が変わった。
だからといって、大きな希望も期待もない。この国の殆どの人々は、諦観めいた視線で国の中枢を眺めている。
いや、「諦観」などと言うとまだ聞こえがいい。自分自身を含め、この国の人々は、無知のまま考えることを諦め、自ら「傍観者」に成り下がってしまっているのではないか。

そういうことを改めて鑑賞者に突き詰め、あまりにも居心地の悪い情感で覆い尽くすような映画だった。

国家の中枢の陰謀と闇に気づいた新聞記者たちが、真実を暴き出そうとするストーリーテリングは、ハリウッドをはじめ数多の映画作品で描かれてきたプロットだ。
ただし、多くのハリウッド映画と異なり、この映画は、主人公たちが明確な危機に陥ることもなければ、胸をすくカタルシスを得ることもできない。
ただ、じわじわと真実に気づくと同時に、じわじわと真綿で首を絞められるようにこの国の闇の本質に追い詰められる。

真実を光のもとに晒そうとする行為が、実のところ、もっと深い闇へと自分自身を引きずり込んでいたという悍ましさ。
溜飲を下げさせないこの映画の顛末が物語るもの、それは今この瞬間の、この国の有様そのものではなかろうか。

 

“一応”フィクションであるこの映画のストーリーが、現実社会のありのままを描き出しているとは思わない。
或る新聞記者の主観が原案でもある以上、“一つの観点”として捉えるべきものだろうとは思う。
この映画で描かれていることに対して、「偏って考えすぎ」と揶揄したり、「そんな馬鹿な」と嘲笑することも自由だろう。
だがしかし、そういう風に一笑に付することができない現実が、事実としてこの国の社会や政治の愚かな有様に表れてしまっていることは否定できない。

この国の中枢に「巨悪」は存在するのか否か。
もし存在するとするならば、その「闇」を司るのは、私利私欲に走る政治家か、それとも「この国のため」と盲信する官僚組織そのものか。
そう逡巡しながら、はたと気づく。
否、「闇」を拡散し、支配しているのは、「諦観」という言葉の下に考えることを放棄し、「傍観者」に成り下がってしまっているこの国の人々一人ひとりなのではないかと。

「誰よりも自分を信じ、疑え」

新聞記者の主人公の亡き父が遺した言葉が指し示すものは、決してジャーナリズム精神に留まらず、国民一人ひとりのあり方として、我々が刻むべきものではないかと思えた。

 

主演の韓国人女優シム・ウンギョンの演技は素晴らしかった。日本語のアクセントの問題も、主人公のキャラクター設定が、国際的に活躍したジャーナリストを父親に持つ帰国子女ということを踏まえると、決して違和感ではなくむしろ的を射たキャスティングだったと思う。
一方で、日本人の主人公役に日本人女優がキャスティングされていないことに否定的な意見も見聞きするが、ここにも何かしらの圧力めいたものを感じてしまった。

韓国人俳優の骨太な演技力と存在感は言わずもがなだが、だからといって日本人女優の演技力が劣っているとは思わない。
主人公の記者役に日本人の実力派女優がキャスティングされていたとしても、作品としてのクオリティーが下がることは無かっただろう。

ではなぜ日本人女優はキャスティングされなかったのか。

この映画の主演に日本人女優がキャスティングされなかったのは、日本の芸能事務所が“尻込み”したということに他ならないのではなかろうか。
時の政府をほぼ名指しで糾弾する役柄を演じさせることによる、女優個人というよりも所属する芸能事務所自体のパブリックイメージに対する怯えと、何かしらの忖度。

そういうことがどうしても垣間見れる日本の芸能界には、やはり脆さと限界を感じずにはいられない。
近年、トップランナーの俳優たちの独立が立て続く背景には、そういうこの国の芸能界そのものの脆弱性も影響しているのではないか。

 

イメージ低下を危惧する芸能事務所に限らず、この国の人々、いや国家そのものが、弱々しく、怯えている。
国全体の怯えと共に、闇は益々深まる。
どうしたって同調圧力から脱することができない国民性であるならば、国民全体が同じ方向に勇気を持った「一歩」を踏み出すことでしか、「未来」は見えてこないのではないか。

 

Information

タイトル新聞記者
製作年2019年
製作国日本
監督
藤井道人
脚本
詩森ろば
高石明彦
藤井道人
撮影
今村圭佑
出演
シム・ウンギョン
松坂桃李
本田翼
岡山天音
郭智博
高橋努
西田尚美
高橋和也
北村有起哉
田中哲司
鑑賞環境インターネット(Netflix)
評価8点

 

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画像引用:https://www.netflix.com/

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