「罪人たち」“100年先も「最新地点」を観れるなら、吸血鬼になるのも悪くはない”

2026☆Brand new Movies

評価:  10点

Story

双子の兄弟スモークとスタックは、一攫千金の夢を賭けて、当時禁じられていた酒や音楽をふるまうダンスホールを計画する。オープン初日の夜、多くが宴に熱狂する中、招かざる者たちの来客で事態は一変。歓喜は絶望にのみ込まれ、人知を超えた者たちの狂乱が幕を開ける。果たして、夜明けまで、生き残ることが出来るのか―。 Filmarksより

映画『罪人たち』ファイナル予告|2025年6月20日(金)劇場公開
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Review

古今東西、「映画」という娯楽文化は、時代を駆け抜けながら生まれ続け、ときに歓び、ときに悲しみ、ときに怒り、人間の営みの様々な感情を刻みつけるように、その価値を更新し続けてきた。
私自身、40年余りの短い時間の中で、映画娯楽を観続けてきたけれど、本作はその長い長い文脈における「最新地点」とも言うべき作品だったと思える。

昨年(2025年)の公開時点から、映画鑑賞界隈の方々からその評判と価値は伝わっていたのだけれど、自分の中での期待値が高まるほど、タイミングを逃し続けてしまったことをまず激しく後悔した。
「罪人たち」(原題「Sinners」)というタイトルには宗教的な意味合いが多分に含まれているため、キリスト教の文脈に私個人の人生や価値観が直結していないことも、本作に対して無用な距離を置いてしまった一因かもしれなかった。
ただだからこそ、この映画タイトルに込められた意味から考えていきたいと思う。

タイトルがダイレクトに示す通り、本作は、宗教的思想における「罪」に塗れた者たちを、画面いっぱい、映画いっぱいに映し出している。
端的に言ってしまえば“吸血鬼映画”である本作において、本人の意思に関わらず、結果的に悪魔に魂を奪われ吸血鬼になってしまった人間たちは、“罪人”の象徴ではある。
ただし、この映画が描き出した「罪」の本質はそこではなく、“罪人”の正体は、もっと広く深く重層的な意味合いを孕んでいた。

つまるところ、“罪人”とは、「人間」そのものであり、性質や所業、時代や環境に関わらず、そもそも全人間は“罪人”であるということを、このエキセントリックな映画は表していた。
それは、「すべての人間は罪を負っている」という新約聖書の根幹的な思想にも通じることなのだろう。

ギャング上がりの双子の主人公は、もちろん犯罪者であり、それぞれが己の人生においての精神的な後悔と罪を負っている。
黒人教会の神父である父親に反発するように、悪魔をも呼び寄せてしまうブルースを奏でる若者も異端者であり、“破滅”を生み出した張本人である。
KKKの白人レイシストたちはもちろん、現代まで息づく差別構造を生み出した社会そのものも、人類の罪と悪魔性を代表するものだろう。
そして、本作の舞台である1932年のミシシッピ・デルタにおいて、酒とブルースとギャンブルを謳歌することすら、当時の宗教的価値観から見れば“罪”とされていたことも否めない。
つまり、双子の念願だった酒場「ジューク・ジョイント」に集ったすべての人間と、人間以外の者たちが、“罪人”であったということ──

本作が、“吸血鬼映画”というあくまでも一側面のラベルを隠れ蓑として描き出したのは、そういったすべての“罪人”たちによる享楽と残虐が入り混じった狂騒劇であり、人間の歴史と社会が生み出した混沌だったのではないかと思える。
その“歴史”とは、必ずしも1932年当時のアメリカ社会のみを表すものではなく、過去と未来、おびただしい文化や思想、それらに伴うすべての人間たちの感情をも、同じ文脈の中に放り込むように描き出したものだった。
そう捉えると、この映画の中の“ブルース”や“吸血鬼”、そして“双子”という題材は、その混沌極まる人類史の文脈をストーリーテリングの中で有機的に機能させるための巧みな“仕掛け”だったようにも思えてくる。

そして、本作が映画娯楽として最も優れているのは、悲痛で残酷な歴史的背景や、常に人類の火種となり得る宗教的価値観の相違を、阿鼻叫喚の一夜に詰め込むと同時に、その夜に至るまでの人々の時間を、「最高の一日」として描き出すという、奇跡的なエモーションに他ならない。
それは、すべての人間が罪を負っているという事実を認め、踏まえた上で、それでも人間は愛おしく、素晴らしいという、眩くて力強い讃歌だった。

クエンティン・タランティーノの「ジャンゴ 繋がれざる者」や「フロム・ダスク・ティル・ドーン」から、藤子・F・不二雄のSF短編「流血鬼」に至るまで、あらゆるジャンルのポップカルチャーの要素を彷彿とさせ、混ざり合い、昇華された映画でもあった。
きっとタランティーノは、本作を観て、悔しさで唇を噛み締めながら、高々とサムズアップを掲げただろう(想像)。
B級的ホラーアクションでありながら、映画史の文脈に燦然と輝き、その名を刻みつけると同時に、本作を「最新地点」として、映画娯楽がさらに更新されていくことを確信させてくれる傑作だ。

100年先も、その「最新地点」を観られるのならば、吸血鬼に魂を売ることも悪くはない、とすら思わせる。

 

Information

タイトル 罪人たち SINNERS
製作年 2025年
製作国 アメリカ
監督 ライアン・クーグラー
脚本 ライアン・クーグラー
撮影 オータム・デュラルド・アーカポー
出演 マイケル・B・ジョーダン
ヘイリー・スタインフェルド
マイルズ・ケイトン
ジャック・オコンネル
ウンミ・モサク
ジェイミー・ローソン
オマー・ミラー
デルロイ・リンドー
鑑賞環境 Web配信(字幕・U-NEXT)
評価

 

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