TKLスバラシネマ+映画特集企画 vol.5 『今週末に自宅で観たい?“パンデミック映画” 特集』
まったくもってとんだご時世真っ只中というわけで、言葉通りに“滅入る”日々が続く。
あれが悪いこれが悪いと言ったところで意味をなさず、また明確な非難の対象が不在であることも、人の心を余計に陰鬱にさせているのかもしれない。
映画ファンとしても、楽しみにしていた注目作が軒並み公開延期なったり、そもそも映画館自体に行きづらい状況が続いているためフラストレーションが溜まる日々。
ただまあ、今の世の中便利なもので、映画館に行かなくても、またはショップにレンタルしに行かなくても、自宅から一歩も出ずに映画はいくらでも観られる環境が整っている。
こんな世界的危機の只中で、敢えて“そういう映画”を観る必要もないのかもしれないが、現実逃避ではなく、映画の中の“パニック”に目線をやることで、現実世界の“パニック”に対して今一度冷静になれることもあるかもしれない。
というわけで、今週末に自宅で観られる“パンデミック映画”を紹介します。
「アウトブレイク Outbreak」
1995年【アメリカ】
監督:ウォルフガング・ペーターゼン
出演:ダスティン・ホフマン レネ・ルッソ モーガン・フリーマン キューバ・グッティング・Jr ケビン・スペイシー ドナルド・サザーランド
「パンデミック」という言葉自体が日本国内でもポピュラーになったのは、2000年代以降だろうけれど、1995年公開の本作こそが、“パンデミック映画”の先駆けであったことは間違いない(少なくとも個人的には)。
ドイツの巨匠ウォルフガング・ペーターゼンが監督を務めた本作は、“死のウィルス”の世界的拡大によるパニックを、恐怖感と娯楽性たっぷりに絶妙なバランス感覚で仕上げた傑作エンターテイメントだ。
主演のダスティン・ホフマンをはじめ、レネ・ルッソ、キューバ・グッティング・Jr、モーガン・フリーマン、ドナルド・サザーランドら豪華キャストが顔を揃えており、キャスト面においても「娯楽大作」の呼称が相応しい。当時まだそれほど名を馳せていなかったケビン・スペイシーが、味のある主人公の同僚役を演じており、印象的な死に様を見せる。
エンターテイメント大作ならでは仰々しさや都合良さも散見するけれど、そういう部分も含めて娯楽映画として只々面白い。
1995年に劇場鑑賞して以来、何度でも観たくなる映画の一つである。
「コンテイジョン Contagion」
2011年【アメリカ・UAE】
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:マリオン・コティヤール マット・デイモン グウィネス・パルトロウ ケイト・ウィンスレット ジュード・ロウ ローレンス・フィッシュバーン
高致死率の新型ウィルスが瞬く間に世界に広がっていく恐怖を描いた本作は、その“感染”そのもののリアルさやスピード感がとても恐ろしく、スティーブン・ソダーバーグ監督によるコントラストの低い抑制的な映像表現がより一層恐怖を駆り立てる。
プロット的には「アウトブレイク」と似通ってはいるが、映画世界のテンションとテイストは全く「別物」であり、より現実世界に近い「人間」と、その人間が巣食う「社会」の脆さを浮き彫りにしてみせる。
パンデミックのパニックを目の当たりにして、疑心暗鬼になり、吹聴される憶測や詐欺的な陰謀論に惑い、更に混乱していく人間社会の本質的な脆さこそが、危機であり恐怖であることを痛感させられる。
それは今この瞬間の現実世界の混乱に、最も近い映画世界かもしれない。
「ワールド・ウォー Z World War Z」
2013年【アメリカ・イギリス】
監督:マーク・フォースター
出演:ブラッド・ピット ミレイユ・イーノス ジェームズ・バッジ・デール デヴィッド・モース
“ゾンビ映画”において、ゾンビが増殖していく過程を「感染」と表現する作品も多い。
本作は、文字通り爆発的に増殖していくゾンビを「感染者」と捉え、何とかその感染を食い止めるために、ブラッド・ピット演じる主人公がゾンビの群れをかいくぐりながら、ワクチン生成に奔走する。主人公が“元国連職員”という設定からも明らかなように、そのストーリー展開は、まさにパンデミック映画そのものであろう。
本作の最大の特徴の一つである「大群」+「猛スピード」で襲ってくるゾンビ描写も、ゾンビ化した人間そのものを夥しいウィルスのように映し出しており、思わず笑ってしまうくらいに、怖い。
製作中のゴタゴタで、なかなか当初の予定通りの作品には仕上がらなかったようで、結末も極めて中途半端ではあるが、パンデミック映画の一つとして外すわけにはいかないし、噂が出ては立ち消え続けている“続編”の実現も諦めてはいない。
「新感染 ファイナル・エクスプレス Train to Busan」
2016年【韓国】
監督:ヨン・サンホ
出演:コン・ユ チョン・ユミ マ・ドンソク
特急列車を舞台にしたこの韓国版ゾンビ映画も、ダジャレ魂満載の邦題からも明らかなように「感染」の恐怖を描いた作品だった。
ゾンビ映画と骨太な韓国映画の土壌は相性がよく、とても面白い映画だった。韓国の社会性や人々の気質の中で突如として生じた“ゾンビ”というパニックは、そのまま“感染症”のパニックとしてもなぞることができる。
日本人とは似て非なる人々の言動が興味深く、また感慨深いドラマを生んでいたとも思う。各国で、同じ設定やプロットでこの映画をリメイクしたならば、全く異なる展開や結末が生まれるのだろうなと思う。
それはまさに、パンデミック下におけるこの世界の様々な有り様に繋がるもので、被害を最小限に抑え込んでいる国もあれば、全てが後手にまわり収集がつかなくなっている国もある。
パニックに直面した時に、その人間の本性が明らかになるということを、この韓国映画は時に辛辣に、時にエモーショナルに描きつけている。
「FLU 運命の36時間」
2013年【韓国】
監督:キム・ソンス
出演:チャン・ヒョク スエ パク・ミナ ユ・ヘジン マ・ドンソク
鳥インフルエンザの蔓延をモチーフに2013年に公開されたこの韓国版パンデミック映画は、「新感線」同様に、韓国映画界の芳醇な土壌に裏打ちされた恐怖感と緊迫感に満ちた見応えある娯楽作だった。
盛り沢山なパニック描写の連続は詰め込み過ぎで節操なくも見えるが、「現実」に対する「娯楽」として、その映画としての在り方は圧倒的に正しいと思える。
現実には、本作に登場するような英雄的な主人公も、自国のアイデンティティを貫き通せる政治的リーダーも、唯一の抗体を持つ救世主も存在しない。
存在するのは、同じく映画の中で描きつけられる人間の愚かさや脆さのみだ。

【番外編】『絶対に観なくていい“パンデミック映画” 』
「感染列島」
2008年【日本】
監督:瀬々敬久
出演:妻夫木聡 檀れい 国仲涼子 田中裕二 池脇千鶴 カンニング竹山
「絶対に観なくていい」なんて言うと風評被害も甚だしいところだけれど、どこからどう見てもきっぱりと「面白くない」のだからしょうがない。
だがしかし、悪しき記憶を振り返ってみると、今この時世だからこそ、“ある意味”観るべき映画なのかもしれない。
脚本のまずさ、演出のまずさ、演技のまずさ、改めて思い返してみても、マイナス要素は枚挙にいとまがないけれど、嫌悪感の正体は劇中の登場人物たちの揃いも揃った“プロ意識”の無さだったと思う。
この映画では結果的に国内だけで1200万人もの死亡者が出るわけだが、実はすべての事象は、過失にしろ、故意にしろ、映画の中のすべての日本人たちの対応のマズさに起因する。
そう、この映画は「感染」の恐怖を描いた作品ではなく、「人災」の恐怖を描いた作品に仕上がってしまっている。
そのくせ「感染列島」などと仰々しいタイトルをバックに、主演俳優の二人が感傷的な表情をキメているものだから益々鼻白むというもの。
端から「人災列島」と銘打って、人がバタバタと死んでいく様をもってして、この国の政治や社会のあり方の愚かさを描いていたならば、なかなか胸糞悪い良い映画になっていたかもしれないなと思ったり。
しかしながら、この映画で図らずも描かれている「人災」は、まさに今この列島で巻き起こっているのではないか。
そういうことを考えると、「駄作」に対する怒りなんてどうでもよくて、リアルにゾッとしてくる。
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