「わたしの知らない子どもたち」“希望からも絶望からも目をそらし戦い続けた子どもたちの真実”

2026☆Brand new Movies

評価:  9点

Story

1945年、終戦。音楽家の父のもとで育ち、ごく普通の暮らしを送っていた12歳の少女・茅野琴子は戦争によって家も家族も失い、焼け野原となった東京で、たったひとり生きることになる。 女性であることが生きる危険につながる現実を知った琴子は、少女という性を隠し、少年として生きることを決意する。 Filmarksより

映画『わたしの知らない子どもたち』【10月16日公開】新予告映像
『#すばらしき世界』『#永い言い訳』の西川美和監督のオリジナル最新作 映画『#わたしの知らない子どもたち』戦後の日本を懸命に生きる“煌めき”が宿る、新たな予告映像解禁!大人たちの想いが、子どもたちの明日を照らす―――それぞれの悲しみ、憎しみ…more

 

Review

「戦後」から80年という月日が過ぎ去った今、現代に生きる私たちは、その「戦後」という時代を一括りにしてイメージしがちだ。
時が経てば経つほど、その時代が持つ意味や輪郭は曖昧になり、正確に伝聞されることも、学ぶ機会も少なくなってきていることが実情なのだろうと思う。
この国の終戦から復興、その後の経済的発展までもが、「戦後」という時代で一括りになってしまい、この時代が孕む闇を直視できていないのではないかと思う。

至極当然のことではあるのだが、戦後の復興と発展は、“終戦”を区切りにして一気呵成に進んだわけでもなければ、最初から希望や可能性に満ち溢れていたわけでもないだろう。
この国は、敗戦によって、明確に「崩壊」した。文字通り国家として叩き潰されたのだ。そしてその崩壊した国の中には、一人ひとりの民がいて、子どもがいたという、あまりにも当たり前であり、残酷な事実があった。

盲信的であれ、盲目的であれ、それまで国民として信じていた価値や概念が一転し、国とともに“希望”そのものが崩壊した社会環境の中で、持たざる国民、そして取り残された子どもたちは、どのように日々を生き、その小さな生命を継いでいったのか。
タイトルが示す通り、この映画が描き出したのは、私たちが知らない子どもたちの生き様、またはこの国が目をそらし続けてきた当時の子どもたちの絶望だった。

2006年の「ゆれる」以来、20年間にわたって西川美和監督の作品を観続けているけれど、彼女の映し出す映画世界は、いつもこの国の社会と人間に対して容赦なく厳しく、だからこそ深い優しさを孕んでいる。
本作は、西川美和監督作としては初めて現代劇ではなく、確固たる戦争映画であるが、その精神性は変わらず、より濃厚に刻み込まれているように思えた。

「戦後」という時代、混迷極まるその社会の裏側で生きた子どもたちの実情が、これまであまり明るみに出てこなかった背景には、その子ども時代を生きた人たちの多くが、その経験や過去を“語りたくなかった”という実情があるのではないかと思う。

誰にも語れない、誰にも語りたくない、絶望と屈辱に塗れた時間を経て、それでも命を繋いだ“子どもたち”の感情が、この映画には満ち溢れていた。

主人公“琴子”を演じた13歳の女優小八重葵美の風貌と眼差しが、本作の映画的価値そのものを体現しているように思えた。
生きるために性別を捨て、頭を刈り、本心を秘め続けた彼女の姿には、闇に包まれたような世界の中で、それでも存在し続けるための覚悟が満ちていた。
希望と絶望、その両方から目をそらし、ただひたすらに自らの尊厳を守り続けるように苦闘する姿からは、安直な感動や悲壮感を超えた人間の強さを感じた。

その一方で、映画的な構造を踏まえると、難点もあった。
物語構造としては、戦争孤児となった琴子と、彼女の担任教師だった曽根文美子の二人が本作の主人公だったと思うが、文美子側の描写はやや物足りなかったように思える。

曽根文美子を演じた二階堂ふみは、教え子を見放してしまった後悔と、乳飲み子を抱えるジレンマに苦悩しながら、戦後を生きる一人の女性を熱演していたとは思う。
教師としての誇りや女性の尊厳を捨てざるを得ず、得た金でありつけた食事をかき込む姿には、琴子のそれとはまた異なる人間としての強さと正しさがあった。

ただし、文美子の描写シーン自体が、映画全体の割合の中で少なかったため、二人の主人公による対比が上手く機能していなかったように感じた。
映画世界の主題として、戦後の子どもたち側に比重が寄ってしまったことは致し方ないことだとも思えるが、文美子が辿った一人の母親としての苦悩と、女性としての絶望が、ストーリーテリングの中でもう少し立っていれば、もう一歩踏み込んで映画的な深みが生まれたのではないかと思える。
そうすれば、クライマックスにおける琴子と文美子の再会と、希望の地へ向かう列車の中で対峙する二人の関係性にも、さらに深いドラマ性が生まれたように感じる。

いずれにしても、容易には語ることすらできない苦悩の中で、それでも日々を生き抜き、「戦後」という暗く重い時代を生き抜いた女性たちがいたからこそ、今この国の社会は存在しているのだと思えた。
今こそ、現代を生きる私たちは、戦前、戦中と同様に、「戦後」という時代に対して、正しい理解を深めていかなければならないと思う。

真実を秘め続けた琴子が、ついに諦観し、自らの衣服を脱ぎ始める。それに気づいた施設の女性(吉田羊)が、強く、優しく、彼女を包み込むように抱きしめる。
涙すらも遠ざけていた琴子が初めて感情を吐露する様からは、ようやく彼女の戦いが終わり、本当の意味で「戦後」を迎えたように感じられた。

 

Information

タイトル わたしの知らない子どもたち
製作年 2026年
製作国 日本
監督 西川美和
脚本 西川美和
撮影 笠松則通
出演 小八重葵美
二階堂ふみ
坂東龍汰
櫻井海音
花瀬琴音
羽山由一郎
小林丞之介
渋谷そらじ
武内ひなた
井上肇
北村有起哉
吉田羊
竹野内豊
岡田准一
田中裕子
役所広司
鑑賞環境 映画館
評価 9点

 

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