「127時間」

2011☆Brand new Movies

 

映画を観終わり、映画館の外に出たとき、いつもと同じ風景が少し違って見えることがある。
歩く感触や呼吸の感覚までもが、映画を観る前と後では何か違うと感じる。
「映画を観る」ということは、人生における一つの“経験”であり、新たな経験を得たことで、自分自身の世界観に影響を及ぼす。
それが、良い映画を観れたことの最大の価値だと思う。

今日観た映画は、まさにその「価値」を与えてくれる作品だったと思う。

自身に対する少々過剰な自信から周囲の人間との関わりに執着してこなかった主人公。何もかもがウマくいくと信じて疑わなかった人生が一転、文字通りに奈落に落ち込んでいく。
突如としておとずれた人生の局面で、はじめて“自分”という人間を省みた主人公が辿り着いた心境。

この映画で描かれているものは、決して劇的なストーリーや人間模様ではない。
稀有な人生の局面に立たされた主人公に限らず、世界中のどの人間にとっても不可欠なことだったと思う。

人間として生きている自分自身の営みを客観視したとき、果たしてどれほどの人間が、その本質に揺らぎを覚えずにいられるか。
そういうことを、巧みな映画術でまっすぐに問いかけてくる。

正直なところ、映画のイントロダクションを聞いただけで、どういう顛末の映画かということは容易に想像出来た。
実話を元にした作品と知り、確かに稀有な話だとは思ったが、映画作品としてどれほど内容を膨らませられるものかどうかということに対しては懐疑的だった。
せいぜい世界中の衝撃トピックスを取り上げるバラエティー番組の題材程度のものなのではないかという印象で、今作が各場面で高い評価を得ていることがピンとこなかった。

しかし、実際に鑑賞してみて各評価の高さに激しく納得した。
題材自体は確かにシンプルだ。冒険好きの男が絶体絶命の危機に陥り、奇蹟的に生還するという話だ。
重要なのは、その出来事自体に焦点を当てるのではなく、その危機の中で“生きる”人間の様々な感情を真っ正面から描き切っていることだ。
一つ間違えば極めて単調になってしまう映画世界を、監督は最高の映画術でつむぎ出し、主演俳優はその中で見事に息づいてみせた。

命を削り、大変な損失をして、「最悪」から抜け出した主人公が口にした言葉は、「Thank you…」という一言だった。

自分に巻き起こった全てのことが、自分に与えられるべき運命であったということを認め、ただひたすらに生き抜いた人間の脆さと強さに感動した。

 

「127時間 127 Hours」
2010年【米・英】
鑑賞環境:映画館
評価:9点

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