「愛を読むひと」

2010☆Brand new Movies

 

戦後の西ドイツ、ふとしたきっかけで出会った15歳の少年と36歳の女。欲望のままに惹かれ合い、たった一夏の関係を過ごした二人。彼らの中ではじまった「朗読」という儀式は、一体何だったのだろう。

その意味は、決して単純に美しいものではないように思う。

過去の“業”を秘め無学をひたすらに隠そうとするアラウンド40の女と、目覚めた“性”を抑えきれず彼女に対する無意識下の蔑みを「愛」と盲目する少年、それぞれの脆さと愚かさを、「朗読」という行為で正当化しているような、そんな屈折した心証が見え隠れする。

キャッチコピーにもある通り、そこには、「愛」と呼ぶにはあまりに切ない二人の男女の関係性があったと思う。

時を経て、再び「朗読」という行為で繋がる二人の関係性は、20年前のそれとはまったく異なる。
かつての感情の高ぶりを思い起こすと同時に、決して取り戻すことは出来ない過ぎ去った時間を感じ、二人の関係の本当の意味での“終幕”を迎える。

結局、この男と女は、一度たりとも心が通じ合ったことは無かったのではないかと思える。
お互いが、無知と無学の狭間で盲目的に惹かれてはすれ違うということを繰り返し続けたのではないか。

それはやはり「愛」ではなかった。ただ、その関係性がイコール「悲劇」かというとそうではない。
それぞれの人生において、「朗読」という行為は、“始める”意味でも、“終わらせる”意味でも不可欠なことだった。
それはおそらく当人たちでさえ説明がつかない心と心の“交じり合い”だったのだろう。

この物語の真意を100%理解出来たとは思えないし、完全に理解することなどは不可能だと思う。
なぜなら、主人公の女が死を覚悟してまで文盲であることを隠し続けたことが如実にあわらすように、人間の心理は千差万別であり、一つとして完璧に重なり合うものはないからだ。

そういう人間の複雑さを映画として情感たっぷりに描き出した優れた作品だと思う。

ケイト・ウィンスレットが素晴らしい。一時はニコール・キッドマンに配役が変更になったらしいが、ウィンスレットはまさに適役だったと思う。
原作は読んでいないけれど、身体つきを含めた「表情」が、この物語の主人公そのものだったと思えた。

彼女が女優として名を馳せた「タイタニック」がもう13年前なので、もういい歳かと思ったが、今年まだ35歳と意外に若い。
多くのハリウッド女優が若々しさを保とうとする中で、この歳ですでにこの風格を醸し出す女優としての佇まいは凄い。

今年、メリル・ストリープが16回目のアカデミー賞ノミネートで話題になったが、ウィンスレットも今作での初受賞を含めて既に6回のノミネート。これから更に大女優として磨きがかかっていくのだろうと思う。

「愛を読むひと The Reader」
2008年【米・独】
鑑賞環境:DVD
評価:8点

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