白昼、大衆の面前で起こった“大統領暗殺”。
その場に居合わせた9人の視点から、導き出される“コトの真相”を描く。
正味数十分間の出来事を、9つの視点から描き出すことによって文字通り多面的に描き出した趣向は、緊迫感に溢れ、辿り着くべき“真相”に向かって非常にスリリングだったと思う。
同じ時間軸を繰り返す描くという一つ間違えば単調になってしまうストリー展開を、卓越したカメラワークで、飽きさせずにテンポ良く映像化しているとも思う。
娯楽映画として滞り無く観れる映画であることは間違いない。
ただ、あと一歩二歩ストーリーに深みと説得力がない。
9人にキャラクターの描写がそれぞれ微妙に軽薄なのことが、その最たる要因ではないかと思う。
デニス・クエイド演じる主人公のシークレットサービスは、心に抱える傷の本質が見えてこないまま、終盤はほとんどアクションヒーロー化してしまう。
アカデミー賞俳優フォレスト・ウィッテカー演じる黒人の観光客は、家族と離れていることに苦悩を感じているのだろうが、それがどれほど深いものなのかイマイチ伝わってこないまま、なんとなく解決してしまう。
ウィリアム・ハート演じる大統領は、思慮深い人格者を醸し出しているが、そもそも彼が行った政策というものが曖昧なので、なぜ彼が賞賛と報復を受けるのかも曖昧なままに終始する。
暗殺の実行犯グループについても、それぞれ人格と目的についてのディティールが弱いので、言動に真実味が出てこない。
テレビクルーのディレクターを演じたシガニー・ウィーバーは、モニターの前で衝撃と疑問を受けたまま放っておかれてしまい、結局報道車から出ることすら許されない始末。
全体的に興味深げな体裁は整えられているのだが、結局のところそこまで勿体ぶる必要はないのではないかという「真相」に辿り着いてしまう。
決して面白くないということはないのだけれど、仰々しいわりには残るものはあまりないということは否めない。
「バンテージ・ポイント Vantage Point」
2008年【米】
鑑賞環境:映画館
評価:5点
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