この古ぼけたファンシーな敷布団は、僕が生まれた時から幼年期を通して使っていたものだ。
先日、母親が押入れを整理していたら出てきて、もうどうやったって誰も使えないので、捨てられることになった。
翌朝粗大ごみで出すために、玄関前に置かれている。
こういうものは、出てくるまでその存在自体忘れていたくせに、無性に懐かしさがこみ上げて、切なくなる。
実際に、これで寝ていた時のことなんてほとんど思い出せないけど、絵柄の印象や手触りは染み出すように脳裏に甦ってくる。
きっと、小さな自分は、この布団の上で、いろんなことを覚え、考えた筈だ。
大袈裟な言い方をすると、「僕」というもののすべては、ここから始まったのだ。
人間は、生きていく中で、こういう様々なものと出会い、無意識のうちに別れていっているのだろう。
何気ないものに対して、こういう感情を抱けることは、とても幸福なことだ。
でもだからこそ、余計に寂しさも膨らむ。
翌朝、玄関前に、あの布団はもうなかった。
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