「終戦」の報せを聞き大騒ぎになる家族や近所の人々の様子を少し遠くに感じながら、
ヒロインは、静かに淡々と、ただはっきりとした口調で言い放つ。
「さ、ご飯食べよ……」と。
そのとても何気ない台詞には、
悲しみと苦しみを伴った戦争という長く果てしない時間を、
多くの大切なものを失い、守り、生き抜いたという深い感慨と、
さあこれからもっとしっかりと生きていかなければならないという決意、
何にも邪魔されることなく自分の意志でしっかりと生きていけるのだという喜び、
それら様々な感情が満ち溢れていた。
ヒロインの人間としての本当の“強さ”を如実に表した見事な「一言」だった。
他にも、本当に印象的な台詞や言動、描写が枚挙にいとまがないドラマだった。
単に一人の魅力的な女性の一代記をドラマ化したという範疇に留まらない、
あらゆる立場の人間の人生観の本質が、決して気取ることなく真摯に描き連ねられていた。
それなりに、沢山の映画やドラマを好んで観てきているつもりだけれど、
このようなある種普遍的な人間ドラマにおいて、これほどまでに思わずハッとさせられる感動が、
次々に生まれるドラマは初めてだったように思う。
素材となった実在の人物の深い魅力と、確かな脚本力と演出力、そこに息づく俳優たちの愛すべき存在感、
そして、このドラマを観る自分自身の人生環境とそれに伴う心の在り方が、
とても幸福な形で融合された結果だったのだろうと思う。
脚本の渡辺あやさんのインタビュー記事に記されていたが、
このドラマのタイトルは、
「あらゆる試練に耐えた誠実」
という花言葉から着想を得たらしい。
まさに“生きる”という行為の中で生じる数々の「壁」を一つ一つ乗り越え、
自ら彩り続けた一人の女性の「人生」そのものを丸ごと観た思いだ。
とにもかくにも、素晴らしいドラマであったことは言うまでもない。
長年密かに注目していた同い年の女優がヒロインに抜擢されたことだけで見始めたのだが、
想像を超えて自分にとってフェイバリットなドラマになった。
この6ヶ月間の“ドラマ体験”には、やはり「幸福」という言葉が相応しいと思う。
以上、NHK連続テレビ小説「カーネーション」を最終回まで見終えての感想。
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