「怪物」 “スクリーンが鏡になってもう一人の怪物を映し出す”

スバラシネマReview

評価:  10点

Story

大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した――。 Filmarksより

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Review

うちの小学6年生になる娘は、平日の朝、しばしば寝床からなかなか起きてこられず、ぐずり、泣き出してしまうことがある。
彼女がそうなってしまう原因は様々なのだろう。成長に伴う心身の変調だったり、先生や友達との人間関係だったり、嫌な授業があることだったり、もしくはもっと不明確で言葉にならない不安や絶望によるものかもしれない。

そんな娘に対して、「親」である僕と妻は、時になだめ、時に叱り、時に寄り添いつつ、彼女を学校へ送り出す。
そうして送り出した後、毎回思う。
「今朝の自分の対応は正しかったのだろうか」と。

もしかしたら、自分の想像が及ばないもっと大きな問題や、深刻な状態に置かれているのかもしれない。もっと優しく接するべきだったか、逆にもっと厳しく接するべきだったか。ああ言った方が良かったかもしれない。こうした方が良かったかもしれない。
そんな答えの出ない逡巡と共に一日を過ごし、一抹の不安を抱えつつ、帰宅すると、元気そうにふざけている娘を見て、安堵する。
そんな「日常」を、おそらくほとんどすべての親と子は、過ごしていることだろうと思う。

「怪物」と冠されたこの映画、幾重もの視点と言動、そして感情が折り重なり、時系列が入り乱れて展開するストーリーテリングは意図的に混濁している。そして、その顛末に対する“解釈”もまた、鑑賞者の数だけ折り重なっていることだろうと思う。

本当の“怪物”は誰だったのろうか?
そもそも“怪物”なんて存在したのだろうか?
詰まるところ、私たち人間は皆、脆くて、残酷な“怪物”になり得るということなのではないか……。
鑑賞直後は、自分一人の思考の中にも、様々な感情や気付きが入り混じり、形を変えていった。

ただ、僕の中で、しだいに導き出された明確な「事実」が一つある。それは、この社会の中で一番“怪物”に近く、一番“怪物”になる可能性が高いのは、やはり「親」であろうということ。

本来人間なんて、自分一人を守り通すことだけでも必死で、余裕なんてあるはずもない。
でも、ただ「親」になるということだけで、問答無用に自分自身以上に大切な存在を抱え、それを「守り通さなければならない」という「愛情」という名の“強迫観念”に支配される。
微塵の余地もなく、自分の子を守ることも、正しく理解することも、「親なんだから当たり前」と、自分自身も含めた大半の親たちは、思い込んでいる。

でも、その“私はこの子の親なんだから”という、自分自身に対する過信や盲信が、得てして「怪物」を生み出してしまうのではないか。
一人の親として、本作を観たとき、最も強く感じたことは、誰よりもこの僕自身がモンスターになり得てしまうのではないかという“恐れ”だった。

したがって、本作の登場人物たちにおいても、最も「怪物」という表現に近かったのは、安藤サクラ演じる母親だったと、僕は思う。

彼女は、愛する息子の変調を憂い、いじめやハラスメントを受けているに違いないと奔走する。
シングルマザーとして息子を心から愛し、懸命に育てる彼女の姿は、“普通に良い母親”に見えるし、実際その通りだと思う。
意を決して学校に訴え出るものの、校長をはじめとする教師たちからあまりにも形式的で感情が欠落したような対応を繰り返される母親の姿は、とても不憫で、まさしく話の通じない“怪物”たちに対峙せざるを得ない被害者のように見える。

しかし、視点が変わるストーリーテリングと共に、物語の真相に近づくにつれ、母親が「怪物」だと疑っていたものの正体と、本人すらも気付いていない彼女自身の正体が明らかになっていく。
彼女は明るく、働き者で、息子の一番の味方であり理解者であることを信じて疑わないけれど、実は、夫を亡くした経緯がもたらす心の闇を抱え続けている。
そのことが、無意識にも、息子に対して“普通の幸せ”という概念を押し付け、アイデンティティに目覚めつつある彼を追い詰めていた。
最初のフェーズでは、紛れもない“良い母”だった彼女の言動が、視点が転じていくにつれ、自分が“奪われてしまったモノ”を、一方的に息子の未来で補完しようとしているようにも見えてくる。

“普通に良い母親”が、実は抱えている心の闇と、我が子に対する無意識の圧力と、或る意味での残酷性。
母親のキャラクター描写におけるその真意に気がついたとき、目の前のスクリーンが大きな“鏡”となって自分自身を映し出されているような感覚を覚えた。
無論、“普通に良い父親”の一人だと信じ切っている僕には、安藤サクラが演じる母親を否定できる余地などなく、只々、身につまされた。

人の親になろうが、学校の先生になろうが、人間である以上、心には暗い側面が必ず存在する。
その側面がたまたま互いに向き合ってしまったとき、人間は互いを「怪物」だと思ってしまうのかもしれない。

 

長文になってしまったが、ちっとも纏まりきらず、語り尽くせぬことも多い。
子役たちの奇跡的な風貌、田中裕子の狂気、坂元裕二の挑戦的な脚本に、亡き坂本龍一の遺した旋律……。
鑑賞にパワーはいるが、何度も観たい傑作。

 

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Information

タイトル怪物 MONSTER
製作年2023年
製作国日本
監督
脚本
撮影
出演
鑑賞環境映画館
評価10点

 

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画像引用:https://cp.cinecon.jp/gaga/kaibutsu/reviews/

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