「バビロン」“満ち溢れた映画愛が汚物にまみれて逆流する”

スバラシネマReview

評価:  9点

Story

1920年代のハリウッドは、すべての夢が叶う場所。サイレント映画の大スター、ジャック(ブラッド・ピット)は毎晩開かれる映画業界の豪華なパーティの主役だ。会場では大スターを夢見る、新人女優ネリー(マーゴット・ロビー)と、映画製作を夢見る青年マニー(ディエゴ・カルバ)が、運命的な出会いを果たし、心を通わせる。恐れ知らずで奔放なネリーは、特別な輝きで周囲を魅了し、スターへの道を駆け上がっていく。マニーもまた、ジャックの助手として映画界での一歩を踏み出す。しかし時は、サイレント映画からトーキーへと移り変わる激動の時代。映画界の革命は、大きな波となり、それぞれの運命を巻き込んでいく。果たして3人の夢が迎える結末は…? Filmarksより

映画『バビロン』本予告
映画『バビロン』2023年2月10日(金)日本公開!-----------------------------------------------<イントロダクション>舞台はゴールデンエイジ(黄金時代)と呼ばれた1920年代ハリウッド、サイレント映画からトーキー映画へと移り変わる時代に、映画業界で夢を叶えようとす...

 

Review

“映画史”そのものが混濁とした映像の渦となって映し出されるラストシーン。
映画という表現の「革新」と「核心」を目の当たりにして、積年の感情が満ち溢れる主人公を大写しにしたラストカットで、スクリーンに映写された画面がぴたりと止まった。
3時間に渡って映画がもたらす魔法と虚構、そして狂気を見せつけられてきた私は、その“フリーズ”状態に困惑しつつも、デイミアン・チャゼル監督による何らかの意図だと信じ切って、体感にして10分以上、そのまま静止したスクリーンを観続けた。
暗がりの中、他の観客がみな席を立ち、ひとり取り残される格好となっても、その真意を探ろうと、映画世界を思い返しながら、微動だにせず凝視していたところ、おずおずと劇場スタッフが現れた。

なんと、映画館側の映写トラブルだった。
映画館に通うようになって30年以上経つが、こんな経験は初めて。こんなことが、この映画の、このラストカットで発生するとは。
無論、映画館側の失態であることは明らかで、今後無いようにしてほしいが、これはこれで稀有な映画体験だったと思う。残念な気持ちも無くはないが、何かの奇跡が働いて、イカれた映画世界に取り残されてしまったような感覚も覚えた。

「世界で最も魔法に満ちた場所」

ブラッド・ピット演じる無声映画時代の大スターは、映画製作の現場(セット)を「世界で最も魔法に満ちた場所だ」と言う。それは、本当に間違いないことだ。
どれほど狂気と非常識が渦巻いていても、フィルムに写し込まれた虚構がもたらす感動が、そのすべてを凌駕する。
その様はやはり「魔法」という言葉が相応しい。

だがそれが「魔法」である以上、非情な“リミット”と共に解けてしまうことも必然。シンデレラは夢のような一夜の後、冷酷な継母の元へ戻らなければならない。
まさしく栄枯盛衰。本作が、かつてメソポタミアに存在した世界最大の古代都市の名称を冠されていることは、そのあまりにも盛大な虚構の儚さを、ダイレクトに表している。

だがしかし、だ。
たとえ魔法のような“一時”であったとしても、そこで輝くことの業と意義を、この映画は奇声のごとく叫ぶ。
ゴシップ誌の記者が諭すように、一瞬だろうとなんだろうと、一度フィルムに焼き付けられた輝きは、時代を超えて残り続け、生まれてもいない見ず知らずのどこかの誰かに感動を与え続ける。
そう、それが「映画」なのだと。

冒頭のイカれたパーティーに象徴されるように、正直、というか絶対的に、“綺麗”な映画ではない。
“文字通り”クソとゲロに彩られた汚物まみれの映画であることは間違いない。
作品的も支離滅裂な要素が多々あり、全世界的に渦巻く賛否両論も多分に理解できる。
でもね、その汚物まみれの映画世界を描きぬいているからこそ、これほど“映画愛”に満ち溢れ、逆流しているような映画も他にないと思える。

「映画」を構築するすべてが、嘘や欺瞞、虚栄と虚構で成り立っているという本質を、この映画に登場するすべての人物、作品の作り手、そして我々鑑賞者の全員が「理解」している。
それでも、私たちは、映画を作り続け、映画を観続け、映画を愛し続ける。

「映画」はクソだ!でも、なんて素晴らしい!
“奇跡的”にも、時間が静止した10分間のラストカットで、私はその映画愛にまんまと侵食されてしまったようだ。

 

Information

タイトルバビロン BABYLON
製作年2022年
製作国アメリカ
監督
脚本
撮影
出演
鑑賞環境映画館(字幕)
評価9点

 

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画像引用:https://spice.eplus.jp/articles/311485

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