評価:
10点Story
お魚が大好きな小学生“ミー坊”は、寝ても覚めてもお魚のことばかり。お魚を、毎日見つめて、毎日描い て、毎日食べて。他の子供と少し違うことを心配する父親とは対照的に、母親はそんなミー坊を温かく見守り、 心配するよりもむしろその背中を押し続けるのだった。高校生になり相変わらずお魚に夢中のミー坊は、町の不良ともなぜか仲良し、まるで何かの主人公のようにいつの間にか中心にいる。やがて1人暮らしを始めたミー 坊は、思いがけない出会いや再会の中で、たくさんの人に愛されながら、ミー坊だけが進むことのできるただ一 つの道にまっすぐに飛び込んで行くーー。 Filmarksより
映画『さかなのこ』予告【9月1日(木)ロードショー】映画『さかなのこ』予告【9月1日(木)ロードショー】そのままで、きっと大丈夫。これは、迷っても転んでも前へ進む、私たちの物語。お魚が大好きな小学生“ミー坊”は、寝ても覚めてもお魚のことばかり。お魚を、毎日見つめて、毎日描いて、毎日食べて。他の子供と少し違うことを心配する父親とは対照的に、母親はミー坊を信じて応援し...
Review
「普通って何?ミー坊はよくわからないよ」
「普通」じゃない人生に嘆く幼馴染に対して、主人公の“ミー坊”は純粋にそう言い放つ。
そこにあったのは、安易な“なぐさめ”でもなければ“やさしさ”でもなかった。
ミー坊自身、普通じゃない生き方をしていることへの自覚があったわけでもないだろうし、好きなものをただ「好き」と言い続けることの価値なんてものを「意識」していたわけでもないだろう。
ただボクは“お魚さん”が好き、だから、“お魚さん”のことばかり考えて生きていきたいし、生きていく。
もし、ただそれだけのことが「普通」じゃないとされるのなら、しかたがない。
彼の根幹にあり続けるものは、雑味のないその「意思」ただぞれのみであり、それ以上でもそれ以下でもない。彼は自ら選択したその生き方に対して、他者からの意味も価値も求めていない。だからこそ、決して揺るがず、ブレない。
それが、この映画の主人公の魅力であり、彼を描いた本作の魅力だろう。
誰しも、自分自身に対して嘘偽りなく、まっすぐに生きていたいと心の中では思っているはずだ。
でも、残念ながらこの世界はそういうことを簡単にまかり通せるほどやさしくできていないし、そういう意思表示をすることさえ難しい。
そんな「意思」を貫き通す主人公が登場しても、「こんなのファンタジーだ」と、普通の大人なら感じてしまうだろう。
そう“普通”なら、こんな馬鹿げたヘンテコリンな映画は、まともに観ていられないはずなのだ。
だがしかし、この映画の中心、この映画を生み出したプロジェクトの中心に存在するモノが、「さかなクン」という“リアル”であることが、この作品を奇跡的に成立させているのだと思える。
どんなに“変”な人間たち、どんなに普通じゃない人間模様を見せられていたとしても、そこにさかなクンという現実に存在する人間の人生が存在する以上、この物語が破綻することはなく、私たちはこの映画世界に没入することができる。
また、いびつで愛おしく多幸感に溢れる映画ではあったけれど、この映画は決して“綺麗事”や“理想論”を都合よく並び立てているわけではない。
あからさまにネガティブなシーンは敢えて一つも見せていないけれど、この映画世界の中では、常に苦悩と孤独、人生における辛酸がぴったりと寄り添っている。
その極みこそが、さかなクン自身が演じる“ギョギョおじさん”の存在だろう。
社会から拒絶され疎まれ、孤独に生きる“ギョギョおじさん”は、まさにさかなクン本人の“ありえたかもしれない姿”であり、主人公ミー坊自身の未来像かもしれなかった。
藤子・F・不二雄の短編漫画「ノスタル爺」のように、子供の頃に出会った孤独な大人は、自分自身の未来の姿だったという悲壮な展開すらも容易に想像できた。
作品のイントロダクションから伝わってくる情報を大きく越えて、全編に渡る“多幸感”とそれと合わせ鏡のように存在する“闇”を孕めた特異な映画だったと思う。
フィルム表現のザラつき、エモーショナルな時代の風景、性別なんて概念を超越したアクトパフォーマンス、そして好きなものを好きと言い続ける崇高さ、映画表現を彩るあらゆる面で、意欲と挑戦に溢れた傑作。
Information
タイトル | さかなのこ |
製作年 | 2022年 |
製作国 | 日本 |
監督 | 沖田修一 |
脚本 | 沖田修一 |
前田司郎 | |
撮影 | 佐々木靖之 |
出演 | のん |
柳楽優弥 | |
夏帆 | |
磯村勇斗 | |
岡山天音 | |
西村瑞季 | |
宇野祥平 | |
前原滉 | |
鈴木拓 | |
島崎遥香 | |
賀屋壮也 | |
朝倉あき | |
長谷川忍 | |
豊原功補 | |
さかなクン | |
三宅弘城 | |
井川遥 | |
鑑賞環境 | 映画館 |
評価 | 10点 |
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画像引用:https://youtu.be/l2pAqfm4ZHc
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