11月3日午前6時の陣痛報告。
二度の“フライング”に慎重になっていたのだろう。
相当な激痛を携えていたはずの愛妻は、努めて冷静なメッセージを送ってくる。
そんな心情を察し、「ついに本番なんだな」と思った。
急いで「身支度」をした。
ただの身支度ではない、「結婚式出席」のための身支度だった。
実は、当日は午前中からの結婚式に招待されていた。
状況が状況だけに、多少の遅刻や途中退席は致し方ないだろうと思っていた。
ともあれスーツを着こみ、ご祝儀を確認し、家を出た。
東の空は朝焼けだった。良い天気になりそうだった。
産院に着き、病室に入ると、愛妻が痛みに顔をゆがめていた。
苦悶の表情だったが、その中には安堵感も垣間見れた。
今度こそ本当に3年前の“痛み”を思い出したという愛妻が、
誰よりもいよいよ「本番」だということを感じていたことだろう。
到着して間もなく、準備ができたとのことで分娩室に入った。午前7時ちょうどだった。
分娩室のベッドの上、繋がれた機器の数値の増減の通りに陣痛がやってくる。
「きたきた」という愛妻の反応に合わせて、僕は彼女の股間をぐうっと強かにおさえる。
「ああ、そうだそうだ」と僕も3年前のことを思い出していた。
陣痛の合間をぬって、義母に状況をメール報告。
愛娘も出産に立ち会いたいと言ってたらしいが、今起きたばかりとのことで、どうやら間に合いそうになかった。
1時間経過、陣痛の間隔は順調に狭まり、2〜3分間隔になっていた。
午前8時過ぎ、助産師が子宮口の全開を確認。クライマックスだ。
3年前の経験から、“いきむ”ことを許された愛妻のパフォーマンスの高さは知っていたので、
もう時間はかからないなと確信した。
ビデオカメラを構えるが、ベテラン助産師に制されて補助に徹することに。
そして。
案の定、愛妻は数回いきんで、するりと産んだ。
2014年11月3日午前8時23分。第二子となる愛息誕生。
愛息は生まれ出た瞬間から泣き始め、おしっこもした。
二人の無事を確認し、愛妻を抱きしめた。
前述したとおり、結果的には今回も超安産で、何も言うことはなかった。
苦労らしい苦労も実際は何もなかったとも言えるだろう。
けれども、
やはりひとつの生命を生み出すというプロセスは、並大抵のことではなく、
喜びも悔みも含めて様々な感情が渦巻いた。
しばらくして、愛娘が義母に連れられてやってきた。
初対面した弟を、少し緊張した面持ちで、慎重に撫でていた。
弟の誕生により、姉となった愛娘もこれからまた色々な感情を渦巻かせることだろう。
その様子を見届けて、産院を後にした。どうやら結婚式には間に合いそうだ。
晩秋の広い空にいくつもの雲が悠然と流れていた。
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