「ベルリンファイル」<8点>

2013☆Brand new Movies

 

洗練されたアバンタイトル、迫力と説得力に満ちたアクションシーン、俳優たちの優れた実在感。「スパイ映画」としての娯楽性を十二分に備え、しっかりと面白い映画世界に対して、“いつものように”羨望の眼差しを向けざるを得ない。
決して実績を積んでいるわけではない殆ど「新人」とカテゴライズされる若手監督が、これほどまでに“確かな”エンターテイメント作品を撮り上げてしまうのだから、相も変わらない韓国映画界の充実ぶりには、羨ましくて、よだれが出そうだ。

北朝鮮の諜報員である主人公が緊張感を携えて自宅へ戻る様をスタイリッシュに描いた冒頭のアバンタイトルを観た時点で、この映画が一定レベルのクオリティーを備えていることは明らかだった。
主人公が優れたスパイであることはすぐに理解できるし、意味深な“暗号”の羅列によって、その後の少々混み入ったストーリー展開を補完する効果も担っている。それだけで、「巧い」と唸るしかない。

また一人、韓国映画界に世界レベルの「才能」持った映画監督が登場したことを認めざるを得ず、リュ・スンワン監督は、すぐにでもハリウッドで通用する映画が撮れるとすら思える。

卓越した映画世界に息づく俳優たちも、揃いも揃って良い。

主演のハ・ジョンウは、独特の素朴な風貌と内に秘めた危うさが、いい塩梅の雰囲気を醸し出し、得体の知れない「北側」のスパイを抜群の説得力もって演じていた。その他の韓国のスター俳優に対してもよく感じることだが、彼らは決してその座に甘んじず、日頃からきちんと“鍛えている”のだろうことが、演じる役柄に説得力が備わる最大の要因だと思う。その点は、多くの日本人俳優も見習ってほしいものだ。

もはや韓国映画界を代表するベテラン俳優であるハン・ソッキュは、「南側」の諜報員として主人公と対峙し、やはり抜群の存在感を見せていた。役柄的には、彼の出世作でもある「シュリ」で演じたキャラクターの延長線上に今作のキャラクターを被せてみると、また違うドラマ性が見えてきて興味深かった。

主人公の妻を演じるのは、みんな大好きチョン・ジヒョン。ご多分に漏れず、「猟奇的な彼女」以来の彼女のファンだが、これまでの出演作とはまた違う表情を見せ、薄幸ではあるが芯の強い美女を好演していたと思う。

個人的に最も印象的だったのは、悪役のリュ・スンボムとうい俳優。登場時は軽薄なチンピラ風情で、完全にやられ役だと思えたが、ストーリーが進むにつれて、まあイヤな感じの悪役に進化していった。クライマックスのある展開など、彼がこの映画に一つのインパクトを与えていることは間違いないと思う。

「北」と「南」の諜報員同士が、その他各国の諜報員らも交えて騙し合い、殺し合うというストーリー展開は、下手をうてばとても情勢的に暗い話にもなってしまいそうだが、エンターテイメントとしてきちっと仕上げていることが素晴らしい。
韓国映画らしく、血なまぐさく、シリアスな展開も踏まえて、ラストはしっかり高揚させてくれる。
こういう映画的なセンスの高さは、やっぱり羨ましい。

なお、“ウラジオストク”の位置が曖昧な人は、鑑賞前にGoogleマップを確認しておくことをお勧めする。

 

「ベルリンファイル The Berlin File(베를린)」
2013年【韓】
鑑賞環境:Blu-ray(字幕)
評価:8点

コメント

タイトルとURLをコピーしました