「トータル・リコール(2012)」<5点>

2013☆Brand new Movies

 

シュワルツェネッガー主演のあの「トータル・リコール」が既に22年前の映画であることに、己の寄る年波を感じずにはいられない。
SFの古典にもなりつつあるフィリップ・K・ディックの原作だし、オリジナル映画は既にカルト的な人気を誇る作品でもあるので、リメイクを試みたいという意欲は買うものの、そのハードルはあまりに高いだろうなということは容易に想像出来た。そして、やっぱりハードルは高過ぎたようだ。

「アンダーワールド」シリーズのレン・ワイズマン監督による映像世界は流石に流麗で、アクションシーンにもメリハリがあり良かったと思う。これが、何のバックボーンもない新作SFアクション映画であれば、もう少しシンプルに好評を得ることも出来ただろう。
しかし、この映画が「トータル・リコール」のリメイクである以上、そういうわけにはいかない。

22年前にポール・バーホーベンが描き出したあの“特異”な映画世界と比較せざる得ない状況では、やはり今作に対しては「凡庸」という言葉が常につきまとう。
オリジナルとの大きな違いとして、今作の舞台は火星ではなく、荒廃した地球の表と裏という設定になっている。
貧富の格差をあからさまに表したこの舞台設定を結ぶ通勤電車“フォール”の存在は剛胆で良かったけれど、オリジナルの広大な世界観に比べてしまうと、どうしてもこぢんまりとした印象を覚えてしまう。
詰まるところ描かれているものは、圧政に対しての小規模な反乱に過ぎず、SF映画としての迫力に乏しかったと思う。

完全に「ブレードランナー」を意識した街並や小道具の造形は秀麗ではあったものの、バーホーベンの毒っ気溢れた世界観に比べると「フツーだな」と思ってしまう。
あの“顔面割れおばさん”を演じた女優を再起用し「二週間よ」という台詞を言わしたり、売春婦の“三連おっぱい”などバーホーベン版を彷彿とさせるオマージュ的描写が随所に挟み込まれていたことは、オリジナル作品に対してのリスペクトが感じられて好感は持てたけれど。

レン・ワイズマン監督のリアルな奥方でもあるケイト・ベッキンセールが、オリジナルでシャロン・ストーンが演じた主人公の“鬼嫁”役を演じ、彼女にとっては珍しい“悪役”を楽しんでいた。
相変わらず美しいので、しつこく主人公を急襲する悪役ぶりをずっと観ていたい気もしたが、さすがに最後まで引っ張り過ぎなような気もした。おかげで敵ボスの存在感が薄れてしまっている。
だいたい、ベッキンセールの役は結局のところ職務に意欲的な公務員であり、よく考えれば決して悪党ではないというキャラ設定も中途半端だったと思う。

とまあ文句のつけどころは尽きないが、そんなことは端から分かっていたことなので、1990年のオリジナル映画の面白さを再確認出来たことで良しとしよう。
今思えば、オリジナル作品主演のシュワルツェネッガーは、あの馬鹿っぽさが適役だったんだなあと思い知った。

 

「トータル・リコール Total Recall」
2012年【米・カナダ】
鑑賞環境:Blu-ray(字幕)
評価:5点

コメント

タイトルとURLをコピーしました