紙切れ

雨。雨は嫌いじゃないが、原付移動者なので非常に困る。


相当ひさしぶりに履いたズボンのポケットをまさぐると、折りたたまれた一枚の紙切れが出てきた。

もはや色褪せ始めているその紙切れの正体は、レシートだった。

そこに書かれていたのは……。

「スターバーックスコーヒージャパン 仙川駅前店 東京都調布市仙川1-49-2 アイスショートモカ ¥315」

なんと、東京在住時に立ち寄ったスターバックスのレシート。

日付は、2002/04/01

驚いた。丸々4年前である。4年間このズボンが履かれずに、洗濯もされていないということも驚きだが、何よりも、何の意味も持たないこの一枚の紙切れがひっそりと時間を経て残り続けていたということに、軽く衝撃を覚えた。

何の意味も持たないと言ったが、どんな物にでもその時の状況と記憶は残っている。

日付と店舗住所から察するに、このレシートは、東京在住3年目を迎えた春のものだと思う。

専門学校を卒業したばかりの僕は、あと一年東京に住むことにし、新しいバイト先を物色しながら自宅の周辺を自転車で巡っていた。そして、バイト募集をしていたカラオケ店にとりあえず目星をつけて、このスターバックスで待ち合わせをしながら小休止していた……。

たぶん、その時のものだと思う。そんな気がする。

こうやってふいに見つけた紙切れが、何気ないけどしっかりと残る記憶を呼び起こすこともある。

記憶はそうやって薄れはするが無くならず残り続け、たまに顔を出したりする。

だからって何がどうこうってことではない。

けど、そういうふうに、決して大袈裟でないたわいもない自分が経てきた時間の「描写」がふいに現れることは、嬉しさとともに少し感慨深い。

その「描写」が間違いなく正しいかどうかは分からない。でも、それはそれで良いと思う。記憶とはそういうものだ。曖昧であるからこそ素晴らしいと思う。

当然だけど、あの時スターバックスで小休止した後にも、幾重にも幾重にもそういう「記憶」が重なり現在の自分がある。

曖昧ではあるけど、記憶は確実に重なり、今の自分を積み上げている。それで良いと思う。

結局あの時目星をつけたカラオケ店ではバイトはしなかった。その直後に近所のレンタルビデオ店でバイト募集の張り紙を見つけたからだ。

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