スバラシネマex「おかえりモネ」“天地を巡る「水」のように人生は循環していく”

おかえりモネスバラシネマex

おかえりモネ

評価: 8点

Story

宮城県気仙沼湾沖の自然豊かな島で、両親・祖父・妹と暮らしていた永浦百音。2014年春、高校卒業と同時に気仙沼を離れ、ひとり内陸の登米市へ移り住むことに。大学受験にことごとく失敗、祖父の知り合いで登米の山主である、名物おばあさんの元に身を寄せたのだ。将来を模索する百音は新天地で、林業や山林ガイドの見習いの仕事をはじめる。そんな百音に、ある日転機が訪れる。東京から、お天気キャスターとして人気の気象予報士がやって来たのだ。彼と一緒に山を歩く中で、「天気予報は未来を予測できる世界」と教えられ、深く感銘を受ける百音。「自分も未来を知ることができたら」。 公式サイトより

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Review

「おかえりモネ」は、不思議な朝ドラだった。
前シーズンの「おちょやん」からの流れで続けて観始めたが、「おちょやん」が昭和の喜劇史を根底に敷きながら一人の女性の烈しく逞しい人生模様を描きぬいていたのに対して、「おかえりモネ」はそれとは全く異なるミニマムなドラマ世界を、極端にスローなストーリーテリングで綴り始めた。

初登場時、清原果耶演じるヒロインは、伏目がちで特別に華やかなわけではなく、はっきり言って「地味」であった。
そんな主人公が、行くあてなく家族のつてで就職した登米の森林組合を舞台にして、物語は始まる。
2週目、3週目、4週目、、、、山々と木々の雄大な自然の中で、ドラマは進行していくが、特に劇的な展開を見せることなく、相変わらずのスローテンポで進む。
ドラマスタートから一ヶ月が経過し5周目に入ってもなお、ヒロインは“雨が降る理由”だとか“雲のでき方”だとかを健気に勉強していて、視聴者として「これは何を見せられているんだろう?」とフワフワとした浮遊感を覚えると同時に、その感覚がじわじわと癖になっていった。

そしてふと気づく、ああこのドラマが描き出そうとしていることは「時間」なのだと。

極端にスローなストーリテリングの中で、ヒロインをはじめとする登場人物たちが実は抱え続けている「後悔」や「苦悩」が、徐々に、本当に少しずつ詳らかにされていく。
優しくて、脆くて、でも人間の芯の部分では確かな強さも持っている人たち。これはそういう“普通”の人間たちが、人生の中で刻み込まれた何かしらの「傷」を、「時間」の経過と共に見つめ続ける物語だった。

「時間」は人の傷を癒やす。
でもそれは、ただ時が過ぎればいいというわけでもなければ、皆が同じ時間経過の中で再び起き上がれるというわけでもないのだろう。そもそも、人の心の傷は、消えて無くなるわけではないのだから。
このドラマは、何も起こっていないような描写をゆっくりと丁寧に描き連ねることで、ヒロインが再び前を向いて進み始めようとするために必要だった「時間」そのものを浮き上がらせて見せていたのだと思う。

そして、その長く、丁寧な序盤の描写の中で掲げられ、このドラマ全体のテーマとして中心に存在していた要素が「天気」だった。
当初、気象予報士を目指す女性が主人公というこのドラマのイントロダクションに対しては、良い意味でも悪い意味でも“朝ドラらしい”マイルドな設定だなという印象を持っていた。
でも、今この時代に、天気すなわち「気象」というテーマが、社会的な命題として、時事性、多様性、持続性、様々な観点において有意義に作用し、極めて現代的な人間ドラマを構築するに相応しいものであることを、このドラマは雄弁に物語ってみせた。
放映期間中には、時折、リアルタイムの豪雨災害や台風の情報がL字型画面で表示されることもあり、その同じ画面の中で、主人公が気象予報士として自然災害へのジレンマを語るこのドラマのあり方は、切実で、正しかったと思える。

喪失と虚無の果てに行き場を見失っていた主人公は、「時間」の経過と共に、紆余曲折を経て、人と出会い、学び、気づき、かつて逃げ出した「故郷」へ戻ってくる。
ただし、このドラマでは、決して元の場所に戻ることのみが、“立ち直る”ということではないということも、きちんと表してくれる。
共に上京した親友は東京で働き続けるし、震災で妻を亡くした元漁師は再び海に出ることが必ずしも再生ではないことを息子に語る。
そのさまは、本当に何かを失い、必死に前を向こうとしている人間たちの真理であり、「本音」だと思えた。
安直に元通りになることを必死に否定することもまた“前進”であることを知った。

作劇的には、決して上手いと言えるドラマではなかったかもしれない。
けれど、自分自身の素直な気持ちをまっすぐに発することがしづらい今の世の中において、このドラマが発し続けた飾りのない言葉は、事程左様に心に沁みた。
劇中でも語られるように、それらの言葉は「きれいごと」なのかもしれないし、現実問題何の解決にも繋がらないものかもしれないけれど、その言葉があるだけで、寄り添って生きていけることもきっとある。

最初はピンとこない変な朝ドラだなぁと思っていたけれど、物語の起因となる東日本大震災から、気候変動と気象ビジネス、地域創生、女性の社会進出、働きづらさ、生きづらさ、そしてパンデミックに至るまで、現代社会そのものを見つめた姿勢は真摯であり、感慨深いものだった。
そして、人間の営みと自然環境におけるそれら様々な課題や問題を、「天気(気象)」というテーマの中で“ひとつなぎ”にしたストーリー構成は素晴らしかったと思う。

ヒロインを演じた清原果耶は、前述の通りドラマ序盤は本当に地味で幼い印象だったけれど、ストーリーの展開と演じるキャラクターの成長と共に、女性としても、人間としても、美しく、魅力的になっていく過程が素晴らしかったと思う。全く知らない女優だったが、今ではすっかりファンだ。
そして、そんな“成長過程”のヒロインを支えるように脇を固める俳優たちも印象的だった。
内野聖陽&西島秀俊の「きのう何食べた?」カップルをはじめ、母親役の鈴木京香、祖父役の藤竜也、夏木マリや高岡早紀ら名実共に「豪華」な俳優たちの存在感が、このドラマの特異なスローテンポを支えていたと言ってもいいだろう。
また、個人的には、デビュー当時から出演映画を観続けている浅野忠信の存在が最も大きかった。今作の主題の一つである喪失からの再生を体現するキャラクターとして、浅野忠信が演じた愛妻を亡くした元漁師の“叫び”は、幾度も心に突き刺さった。

いってらっしゃい、おかえり、そしてまたいってらっしゃい。
人生はその繰り返しで、それはまさに天地を巡る「水」のように、様々に形を変えながら、循環していく。

 

スバラシネマex「おちょやん」“「人生は喜劇だ」と言える人間の強さと愛しさと”
“終戦”を迎えた主人公・千代が、抱え込んできた悲しみと鬱積を吐き出すように、かつて自分が女優を志すに至った「原点」である戯曲『人形の家』の台詞を繰り返し唱える。 それは、憧れの象徴だった人様の台詞が、自分自身の言葉になった瞬間だった。

 

Information

タイトルおかえりモネ
製作年(放映期間)2021年5月〜2021年10月
製作国日本
演出
一木正恵 梶原登城 桑野智宏 押田友太 中村周祐 他
脚本
安達奈緒子
撮影
出演
清原果耶
鈴木京香
坂口健太郎
永瀬廉
蒔田彩珠
藤竜也
西島秀俊
浅野忠信
夏木マリ
内野聖陽
鑑賞環境TV(地上波)
評価8点

 

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画像引用:https://www.nhk.or.jp/okaerimone/index.html

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