「マ・レイニーのブラックボトム」映画レビュー “見上げるしか無い視界と、今この瞬間の悲劇”

マ・レイニーのブラックボトム2021☆Brand new Movies

マ・レイニーのブラックボトム

評価: 8点

Story

1927年のシカゴ。野心家のトランペッター、レヴィーが所属するバンドは「ブルースの母」と呼ばれた伝説的歌手、マ・レイニーのレコーディングに参加した。レコーディングが進むにつれて、マ・レイニーは白人のマネジャーやプロデューサーと激しく衝突するようになり、スタジオ内がピリピリとした雰囲気になった。揉め事やトラブルが発生するたび、レヴィーたちはリハーサル用の部屋で待機を命じられた。待機中、レヴィーは自らの思いを他のメンバーに吐露し始めたが、それをきっかけにバンドの運命が大きく変わることになった。 Wikipediaより

『マ・レイニーのブラックボトム』予告編 - Netflix
1927年、シカゴ。"ブルースの母"の異名を持つ名シンガー、マ・レイニー (ヴィオラ・デイヴィス) のレコーディングが始まろうとしていた。だが、野心に燃えるトランペット奏者 (チャドウィック・ボーズマン) や主導権を握ろうとする白人のマネジメント陣を巻き込み、スタジオには衝突の火種がくすぶり始める。ピューリッツァ...

 

Review

二人の黒人の若者が、闇夜を逃げ惑うように疾走するオープニング。
そのシーンが彷彿とさせるのは、言わずもがな、逃亡奴隷の悲壮感。
しかし、そんな観客の思惑を裏切るかのように、彼らがたどり着いたのは、ブルースの女王のライブだった。
多幸感に包まれながら、多くの黒人たちが、彼女の歌に魅了されている。
ブルースの起源は、奴隷時代に自由を奪われた黒人たちが労働中に歌っていた音楽らしい。
時代は1920年代。そこには、「人種差別」などという表現ではまだ生ぬるい、「奴隷制度」の名残がくっきりと残っていた。

人類史上に、闇よりも深い黒で塗りつぶされた怒りと、悲しみと、憎しみ。
登場人物たちの心の中に色濃く残るその「黒色」が、全編通して、ブルースのリズムに乗るような台詞回しの中で表現されていく。
その「表現」は、まさに黒人奴隷たちの悲痛の中から生まれた音楽のルーツそのものだった。

テーマが明確な一方で、この映画が織りなす語り口はとても特徴的だった。
前述の通り、時にまるでブルースの一節のように、熱く、強く、発される台詞回しも含め、人物たちの感情表現が音楽の抑揚のように激しく揺れ動く。
あるシークエンスを経て、登場人物たちの感情が一旦収まったかと思えば、次のシーンでは再び抑えきれない激情がほとばしる。
そしてその激しい感情の揺れの様が、ほぼ小さな録音スタジオ内だけで展開される。

今作は、舞台作品の映画化ということで、監督を務めたのも演劇界の巨匠であることが、このような映画作品としては特徴的で、直情的な表現に至ったのだろう。
特徴的ではあったが、その演出方法こそが、“彼ら”の抑えきれない怒りと悲しみを如実に表現していたと思う。

主人公となるのは、ヴィオラ・デイヴィス演じる“ブルースの母”と称される伝説的歌手と、故チャドウィック・ボーズマン演じる野心溢れる若手トランペッター。
二人の思惑とスタンスは一見正反対で、終始対立しているように見える。ただし、彼らが白人とその社会に対して抱いている感情は共通しており、その中で闘い打ち勝とうとするアプローチの仕方が異なっているに過ぎない。
そこから見えてくるのは、白人に対して根源的な怒りと憎しみを抱えつつも、それを直接的にぶつけることすらできない彼らの精神の奥底に刷り込まれた抑圧の様だ。

行き場を見いだせない怒りと憎しみの矛先は、本来結束すべき“仲間”に向けられ、物語は取り返しのつかない悲劇へと帰着する。

ようやく開いた開かずの扉の先にあった視界。将来に向けた希望の象徴として購入した新しい靴。
若きトランペッターが抱き、必死に掴もうとした“光”は、無残に、あっけなく潰える。

そして、もっとも愚かしいことは、この映画で描きつけられている描写の一つ一つが、決して遠い昔の時代性によるものではないということだ。
交通事故処理に伴う警官とのトラブルも、白人プロデューサーによって奪われる機会損失も、収入格差と貧困も、彼らに向けられる“視線”すらも、今現在も明確に存在する「差別」の実態そのものなのだ。

アメリカの黒人奴隷制度が生み出した250年に渡る「闇」。時を経てもなお、憎しみの螺旋は連なり、悲劇と虚しさを生み出し続けている。
この映画が本当に描き出したかったものは、100年前の「悲劇」ではなく、今この瞬間の「現実」だった。

 

最後に、今作が遺作となってしまったチャドウィック・ボーズマンの功績を心から讃えたい。
この物語が表現する怒りとそれに伴う愚かさと虚しさを、その身一つで体現した演技は圧倒的だった。
がん治療の闘病の間で見せたその表現は、文字通り「命」を燃やすかのような熱量が満ち溢れていた。
映画界が、いやこの世界が、若く偉大な俳優を失ってしまったことを改めて思い知った。哀悼。

 

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Information

タイトルマ・レイニーのブラックボトム MA RAINEY’S BLACK BOTTOM
製作年2020年
製作国アメリカ
監督
ジョージ・C・ウルフ
脚本
ルーベン・サンチャゴ=ハドソン
撮影
トビアス・シュリッスラー
出演
ヴィオラ・デイヴィス
チャドウィック・ボーズマン
グリン・ターマン
コールマン・ドミンゴ
マイケル・ポッツ
ジョニー・コイン
テイラー・ペイジ
ジェレミー・シェイモス
ドゥシャン・ブラウン
 ジョシュア・ハート
鑑賞環境インターネット(Netflix・字幕)
評価8点

 

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マ・レイニーのブラックボトム | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
1927年。情熱的で歯に衣着せぬブルース歌手マ・レイニーとバンドメンバーたちの想いが熱くぶつかり、シカゴの録音スタジオは緊張した雰囲気に包まれる。

画像引用:https://www.netflix.com/jp/title/81100780

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