「クライマーズ・ハイ」

2008☆Brand new Movies

 

1985年。御巣鷹山の日航機墜落事故を題材に、事故を追う地元新聞社での人間模様を、熱く、真摯に描き出した横山秀夫のベストセラーの映画化作品。

原作を読んでいる人なら殊更に感じることであろうが、何よりも良かったのは、そのキャスティングだ。
相変わらず、小説や漫画の映画化は後を絶たないが、近年稀にみる秀逸な配役だったと思う。そしてそれは、それぞれにキャスティングされた俳優たちが、揃いも揃って素晴らしい演技を見せた事に他ならない。

主人公の新聞記者を演じた堤真一は流石で、未曾有の大事故を前に、自らの信念のもと、熱く、真摯に向き合い苦闘する独特の人間味に溢れるキャラクターを、見事に体現してみせたと思う。主役としての、存在感と華々しさも申し分なかったと思う。
また、野心溢れる県警キャップを演じた堺雅人は、今や性格俳優としてもっともノリに乗っている抜群の表現力で、映画の間を印象的に詰めてみせ、こちらも見事だったし、主人公の上役を演じた遠藤憲一のキャラクターに対するハマり具合は最高だった。

ただ、そういった優秀な俳優たちを差し置いて、個人的にもっとも印象的だったというか、嬉しかったのは、新米女性記者を演じた尾野真千子の、“成長した”見事な女優っぷりである。

1997年の河瀬直美監督作品「萌の朱雀」で、地元奈良の中学校で靴箱の清掃をしていたところを、同監督にスカウトされ、全くの素人からの映画デビュー。
高校生だった僕は、地元のミニシアターで同作品を観たのだが、当時中学生だった彼女の初々しさや素人臭さを超越した女優としての確実な輝きに身が震えたの覚えている。
その彼女が、今作のような大作で、紅一点のキーパーソンを堂々と演じる「女優」となっていたことに、勝手に感動してしまった。

映画のストーリートしては、これは原作も同様なのだが、徹底的に大事故に直面した人間たちのリアルな心理描写を主題にしているので、安易には盛り上がりきれない部分はある。
ただ、そういう部分こそ、この物語が伝える「深層」であり、核心だと思う。そのあたりの要素を、原作に対してオリジナルな部分を加えつつも、確実に描き切ったことは、決して派手さはないが、監督や脚本の力量だと思う。

素晴らしい原作に対して、映像化する意味、人間が演じる意味を、しっかりと焼き付けた映画作品だったと思う。

「クライマーズ・ハイ」
2008年【日】
鑑賞環境:映画館
評価:9点

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