いやスゴイ。紛れもない凄い映画だと思う。実際その一言に尽きる。というか語り出したら、とても語り尽くせない気がする。
「突如、謎の大怪物に襲われる」
という有り得ない事象を、これほどまでに忠実に描いた映画を僕は他に知らない。
というよりも、そもそもこれまでそんな試みをした映画は無かったと思う。
その恐怖と絶望を描く際、これまでのモンスター映画のほとんどすべては、その怪物がどれだけ恐ろしいか、残虐か、という怪物そのものの“正体”に注力してきた。
しかし、よくよく考えてみれば、突然見たことも聞いたこともない巨大モンスターに襲われている当事者たちが、その正体を知り得ることなど不可能に違いない。
突然のパニックと絶望に対し、ただ闇雲に逃げ惑うことしか出来ず、その「目線」に立つことこそ、最も効果的な「恐怖」である。ということに気付き、圧倒的にシンプルで、尚かつ大胆な手法で描き出したこの「映像」の製作者たちは、スバラシイと思う。
決して大袈裟ではなく、この作品は、「ゴジラ」や「キングコング」、「エイリアン」、「ジョーズ」など多くの名作が存在する“モンスター映画”というジャンルにおいてその歴史を塗り替えるものであり、傑作と言って間違いはない。
この作品が、敢然たる傑作と言うにふさわしい理由は他にもある。
アイデア勝負と言えるような大胆な手法の中にあって、非常に繊細で切ない演出が含まれていることだ。
人間の何気ない生活の中の幸福や成功や諸々の感情が、途端に恐怖とパニックに浸食されていくという“有り得ない現実”。
そして、ある二人の幸福な一日の描写が、問答無用の「絶望」によって文字通り“塗りつぶされていく”という様を、一本のビデオテープの中で表現したこと。
それが、この衝撃的な「映像」を、絶対的に素晴らしい「映画」へと昇華させている最大の要因だろう。
「幸福な一日だった」
残された一言が、染み入る。
「クローバーフィールド/HAKAISHA Cloverfield」
2008年【米】
鑑賞環境:映画館
評価:10点
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