評価:
10点Story
寅さんが20年ぶりに、故郷柴又に帰ってくる。歓迎ムードも束の間、寅は妹さくらの縁談をぶちこわし、また旅の人となる。奈良で旅行中の御前様とその娘・坪内冬子(光本幸子)と再会。幼なじみゆえ、気さくな冬子に恋をした寅さんは、帰郷してからも冬子のもとへ日参する。一方、裏の印刷工場につとめる諏訪博は、さくらへ想いを寄せていた・・・ 公式サイトより
男はつらいよ HDリマスター版(第1作)中学の時に家出し、テキヤ稼業で全国を渡り歩く寅さんは、たった一人の妹・さくらが柴又のおいちゃん夫婦に世話になっていると聞いて懐かしの故郷へ。さくらの縁談話にひと肌脱ごうと張り切るが、何もかもぶち壊し。いたたまれなく奈良へ旅に出ると、御前様の…more
Review
気がつけば、僕自身が30代後半。“アラフォー”なんて実感はまるでないが、人生の時間なんてものは、そんな感覚などお構いなしに瞬く間に過ぎていく。
時間は往々にして無情だけれど、それでも人間として歳を重ねるからこそ見えてくるものや、感じられるものは確実にあり、それはそれで悪くないなあとようやく思え始めてきた。
この映画「男はつらいよ」シリーズの第一作に登場する主人公“車寅次郎”は35歳。
まさに自分自身がこの国民的主人公の年齢に追いついた頃合いで、初めての鑑賞に至った。
数年前から観よう観ようとは思っていたのだが、いざ観てみたならば、やっぱり「最高」の一言に尽きた。
ただし、この充足感は、若い頃に観ても感じ取れなかっただろうなとも思う。自分自身がこの映画を楽しむにあたり「年相応」になったのだなということを同時に感じた。
大満足の初鑑賞を終えて、知ったことが二つある。
一つ目は、“車寅次郎”という男が、想像以上に圧倒的な「大馬鹿者」であるということ。
20年ぶりに会った親族や知人が、尽く「ほんとに馬鹿だねえ」と嘆き続ける通り、この男の“ダメ人間”ぶりは正直目に余る。こんな男が親族に居たらそりゃあ大迷惑だろうと同情せずにはいられない。
だがしかし、だ。
それでもこの主人公は「寅さん」「寅ちゃん」と愛され、慕われている。
その大いなる「矛盾」を内包しつつ、キャラクターとして成立していることがまさにこの作品の“奇跡的”な娯楽要素であり、国民的映画シリーズとして何十年にも渡って描き続けられた理由に他ならないと思う。
その奇跡的娯楽を己の身一つで体現しているのが「渥美清」という名優であることは言うまでもない。
実際、どこまでが台本通りで、どこからがアドリブなのか、その境界線がまったく判別できないくらいに、この偉大な俳優は“寅さん”という稀有なキャラクターを、あくまでも自然体で息づかせている。
だからこそ、作中の「とら屋」の面々同様に、我々観客も、寅さんの言動に対して「馬鹿だねえ」と連呼しつつも、何だか安心して、愛着を持って、いつまでも観ていられる。
そして、二つ目は、妹“さくら”を演じる倍賞千恵子の、これまた“奇跡的”な可愛らしさだ。
「幸福の黄色いハンカチ」や「遥かなる山の呼び声」など他の山田洋次監督作品で、その薄幸の美しさは存じ上げていたが、今作の倍賞千恵子もとい“さくら”は只々キュート過ぎる。
言っちゃいないが、「僕の妹がこんなに可愛いわけがない」と再会時に目を丸くする寅さんの気持ちがひしひしと伝わってくる。まさに「アニメかよ!」と言いたくなるくらいに常軌を逸した可愛さである。
この「男はつらいよ」という映画は、“寅さん”の悲哀に泣き笑いする映画であると同時に、“さくら”を愛でる映画であるということを痛感した。
兎にも角にも、笑いと涙のつるべうち。
名優と名監督による「偉大」な娯楽映画であることを思い知った。
公開されたばかりの“まさかの最新作”を含めて同映画シリーズは全50作。
全作鑑賞までの道のりは長いけれど、これから自分の人生と重ねつつ、“同年代”の車寅次郎を追っていくのも悪くない。
Information
タイトル | 男はつらいよ |
製作年 | 1969年 |
製作国 | 日本 |
監督 | 山田洋次 |
脚本 | 山田洋次 |
森崎東 | |
撮影 | 高羽哲夫 |
出演 | 渥美清 |
倍賞千恵子 | |
光本幸子 | |
笠智衆 | |
志村喬 | |
森川信 | |
前田吟 | |
津坂匡章 | |
鑑賞環境 | インターネット(Netflix) |
評価 | 10点 |
引用:https://www.cinemaclassics.jp/tora-san/
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