「花よりもなほ」

2006☆Brand new Movies

 

前作「誰も知らない」まで、ドキュメンタリー的手法を駆使しリアリティを追及し続けてきた是枝監督が、初めて挑んだストーリー映画は、ユニークで幸福な時代劇の傑作として仕上がったと思う。

舞台は江戸の落ちぶれた貧乏長屋。そこで暮らす人々の、健気で人間くさいあらゆる意味で“雑多”な生き様に、笑える。泣ける。

「仇討ち」が賞賛された時代、主人公・宗左も父親の仇討ちを胸に秘めて日々“カタキ”を探す日々。しかしこの宗左、剣術もたたねば、気も弱いへっぴり侍。次第に「仇討ち」の意義自体に疑問を持ち始める……。
「仇討ち」の是非を物語の核心に据え、その周辺で起こる様々な顛末をある面では滑稽に、ある面では真摯に描き上げたユーモラスかつドラマ性溢れた新しい“時代劇”、新しい“武士”の姿がここにあると思う。

『武士道』という崇高な精神論は、もちろん尊敬すべきものだ。しかし実際の“武士”がどれほど『武士道』そのままに生きていたかは、詰まるところ誰も分からない。もしかしたら、この映画で描かれる滑稽で臆病で優しい“人間性”こそリアルな姿だったかもしれない。

僕はむしろ、この映画に出てくる人々が当たり前のように持っている“心の豊かさ”こそ、この国の人々が自らの精神において守り続けていくべきもののような気がしてならない。

そう考えると、今作は、そうやってその「時代」に生きた人々のありのままを「リアル」に切り取ったドキュメンタリー映画のようにも見えてくる。
だとすれば、この人情時代劇さえ、実にこの監督らしい作品のように思える。

うん、スバラシイ。6月にして、今年初の最高点。

「花よりもなほ」
2006年【日】
鑑賞環境:映画館
評価:10点

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